読書記録

読んだ本の感想まとめ。

放課後

放課後 (講談社文庫)

放課後 (講談社文庫)

東野圭吾の初期作品。初出はなんと80年代。の割には、時代がかった固有名詞が出てこないので古臭さをあまり感じさせない。洋弓、ブルマくらいか。さすがの手腕だと思う。執筆当時の時代性が出た作品もそれはそれで味があるけど、時世を全面に出さない筆致は長く読まれる理由のひとつだ。

年代、性別によって犯人に対する評価が分かれそう。現役の人なら共感する人も多いんじゃなかろうか。美しいもの、純粋なもの、嘘のないものを破壊しようとするもの――理解出来ない人には永遠に理解できないと思う。かといって自分は理解できているとも言えないけど。確かに自分もその時代を通過したはずなのにね。

私も手首を切った彼女に対して何も言えないと思う。ただ隣で膝を抱えていることしかできない。よかれと思って口にした激励が相手の憎悪を掻き立てることはあるし、「死なないで」という哀願は時に傲慢さをはらむ。

「それならば死ぬべきなのはあの二人の方じゃないか」という言葉は、殺人教唆の観点では致命的に間違っているけど、人を死なせないという意味では間違っているとは思わない。

妊娠したと目を輝かせて吉事を報告した妻に対し、「堕ろすんだろう?」と言い放った主人公。気は確かか?
確かに父親になるのが煩わしい男が父親になったらろくな未来が見えないが、妻側だって子供を育てる自信がついてから性行為に及ぶわけじゃなく、妊娠に気付いてから出産までに徐々にお母さんになっていく人が大半だと思うんだけど。
子供を育てる自信というのは、妊娠期間中にゆっくり二人で育てていって、出産後の教育方針だって二人で試行錯誤しながら固めていくものでは? 「堕ろすんだろう?」は配慮の欠片もない。

読了後、主人公を「ザマア」と嘲笑おうと思ったけど、あまりにも痛々しくて無理だったよ。彼は助かっただろうか。私は否だと思う。