- 作者:山田 悠介
- 発売日: 2008/10/25
- メディア: 文庫
疑似日常シーンと逃走&降伏シーンのギャップがしんどい。
子供達を連れ出して望みを叶え、結果的に死なせた洋平を殺人犯、あるいは自殺教唆だと糾弾する声もあることと思う。
一時とはいえ幸福だった君明と亮太に比べ、了と真沙美、そして洋平の最期には救いがない。
私には脱走した彼らを追いかけ回す警察よりも、青少年自殺抑止プロジェクトを当然の制度として受け止め、反旗を翻す気配のない大多数の国民の方が遥かに恐怖。必要な犠牲だと思っているのか、抑圧を恐れるサイレントマジョリティなのか。
警察官達は、ただ生きようと、夢を叶えようと藻掻く子供の尻を追いかけ回すために公僕になったのかと思うと、あまりの情けなさに涙が出るね。
そして誰より、15年間一人で孤独と戦い続けた洋平が一番恐ろしいというか、得体が知れない。真沙美達には仲間がいたけど、洋平は長い間一人だった。人は孤独という極限状態のまま生きることはできないと思う。精神力が常人のそれではない。
父が人を殺して自らも命を断った、それを目の前で見ていたという経験は、それほどまでに精神を強くするのか。いや、強くなったんじゃないか。錆びついて固くなって、反応できなくなったのか。
4人の死より、真沙美の恋の方が辛いと感じる私は狂っているのかもしれない。例え二人が普通に生きる道が示されたとしても、血縁関係のある兄妹では、気持ちを告げることすら憚られる。無宗教で輪廻転生なんか信じていないけど、こういう時だけ都合よく「今度は他人として生まれ変わって一緒になってほしい」と願ってしまう。
束の間でも、4人にとって主人公はヒーローだったよ。