読書記録

読んだ本の感想まとめ。

葉桜の季節に君を想うということ

途中で視点が別人になったり、時間軸が過去へ飛んだり、混乱させられた理由が終盤でやっと分かった。
なるほど、これは確かに上質な叙述ミステリーだ。「補遺」が、読者に伏せられていた事実と小説の描写とがなんら矛盾しないことを示している。

私はいつから、主要登場人物が10~20代の若者だと錯覚していた? 久高愛子は隆一郎の孫娘では? 綾乃は20代前半のギャルじゃなかったの? そして何より、主人公には売春婦で女遊びをするDQNのイメージしかなかったんだけど???
なんで全員高齢者なんだよ(叙述トリックに1ミリも気付けなくて悔しい)。
キヨシだけは現役高校生だったけど、定年後の定時制への入学なのかよ。嘘はつかれてないのに騙された(それが叙述トリックの真髄である)

今では所持しているだけで犯罪になるクスリが、戦時中は国家が強制的に国民にやらせていたっていうのが、叙述トリックの真相と同じくらい衝撃だった。少しググったけど、作中の作り話ではなくて史実、だよね?
ヒロポンなる薬が、日本のめざましい復興の一翼を担った――なんてことを知ると、とても複雑な気持ちになる。
高度経済成長期終焉後に生まれた私の人生は、そんな危険な薬を踏み台にして成り立っているのか、みたいな、罪悪感に似たなにかが湧き上がってくる。
犯罪と正義の定義なんて、時代が違えば180度変わるものなんだ。

人間の腹を切り裂いて内臓を引っ張り出すなんて、狂人以外にできない芸当だと思っていた。
でも真相が明かされてしまえば、酷く冷静で狡猾な人間の仕業だった。

主人公の心に傷を作った自殺者二人は、安さんと江幡京だった。
どこで勘違いしたのか、私は二人のうちの一人は主人公の実兄だと思っていた(実際は出征後の戦死だった)。

「君が人殺しの片棒をかついだからといって、俺は君の人格を全否定するようなことはしないということだ」

もしなにかの間違いであと半世紀くらい生きてしまうとしたら、この言葉を自信を持って言えるババアになりたい。
今はまだ、好き/嫌いと良い/悪いを混同しがちなクソガキだけども……。

蓬莱倶楽部の親玉が、高齢者は日本の穀潰しだって罵っていた。若者の負担ばかり重くなるって。
まあ各種社会保険が負担なのは確かだけど、今の高齢者はこの国の焼け野原を大都会に変え、経済や文化をゼロベースで再構築してくれた人達なので、そう邪険にもできないでしょ。
たとえこの国の労働者全員が、年金受給者に対して「早く死ねばいいのに」という思いを抱いていたとしても、それを執行するする権利がなぜ蓬莱倶楽部にあるんだろう。

最後に、主人公に一つ文句を言ってやりたい。お前、風呂なしボロアパートの庶民かと思ったら、白金台に屋敷を持つ上流国民の元お坊ちゃま、独身貴族じゃねーか!