そして、骨髄を提供した「葉山トオル」へ最大の謝辞を。
なにより、これから大人になっていく葉山ハルへ祝福を。
こうして読了してみると、アクトが城ヶ崎グループの崩壊に対して何の予防策も講じなかったことも、城ヶ崎アクトとしての実績やコネクションの一切合切を捨てて自分一人での生活をスタートしたことも、然るべき結末だったのだと理解できる。
あとアクトとハルが恋愛関係にならなかったのも非常によかった。私個人も推し×自分は解釈違いです。
きみを気のすむまで殴らせてくれないか。
これは、わだかまりを無くすための儀式だ。僕たちの間に直接的な悪感情はたぶんない。でも、親の世代でこじれてしまった関係性と、生じた罪を消し去るためには、必要なことなのだろう。
待って、小学生にこの価値観を伝えるのか? 読書感想文とかで書いたりしたら親呼び出しされない? 儀式としての必要悪って、いい大人でも解釈に手間取ることあるよ?
小学生世代って、保護者や教師から「どんな理由があっても暴力は許されない」って叩き込まれるんじゃないのかな。学校や家庭のルールを作っている大人にとって、例外を認めることは面倒だからね。だってどう説明すればいいの、「誰かを守るための暴力」なんて大人だって理解できてないのに。
それとも、鬼滅の刃やワンピースで「誰かを守るための暴力」が描かれているから、自然と理解しているのかな。
最近の小学生は難しいことに向き合ってるんだなあ。末恐ろしい。
葉山トオル
この世界線に存在する登場人物名を示すとするなら「葉山ミナト」か「橘トオル」のどちらかのはずなのに、繰り返し殴られて意識が朦朧としたアクトが、もしかしたら声に出したかもしれない名前。ずるい。うっかり見逃すところだった。
何をしているのです! 乱暴はおやめください!
アニメの世界線では擁護不能な乱暴を振るっていた側の人間が……。なんでこんなちょっとした言葉を私はハイライトしたんだろう? 彼女が生きてる世界線は、アニメからどれくらい乖離した世界線なんだろう?
周囲の人間の振るまいで人格が180度変わるなら、周囲の人間がその人の人格を作るなら、世界には本当は元から悪だった人なんていないんじゃないか。そんな夢想すらしそうになってしまう。
サラリーマンは、つまらなくないですよ……
子供より現役会社員の方が涙腺が決壊するだろう、これ。
きみは、大人になる。
でも、大人になるというのは、たぶん、いいものだよ。
私も、最近ようやくそう思えるようになったよ。気付くのに10年かかった。
右も左もわからない新しい場所で、他の細胞とつながりを作って、ちょっとずつ自分にもできる仕事をして、いつしかそこが自分の居場所になっていくんだ。細胞の移植も、社会生活一年目も、異世界転生も、大体みんな同じだよ。
規模がまるで違うその3つにとんでもない共通点を見いだしたもんだ。震えた。
ちなみに「社会生活一年目」には、新卒だけじゃなく転職も含まれると思う。できてたなあ、私の居場所。本当に右も左も分からなくて泣いてたのに。
城ヶ崎鳳凰に関するニュースが報道される。脱税、政財界の癒着、過去に行った不正な経済操作、恫喝、部下への暴力……。しかしそれだけではない。
城ヶ崎鳳凰はマフィアとつながりを持ち、敵対企業の幹部の暗殺にも関与していた疑いがあるという。
黒の組織が組織的に手を染めている犯罪を全部一人でやってるじゃねえか。
小学生時代の私だったら絶対理解できない犯罪用語のオンパレード。
……植物園の温室を作品に登場させたのは、のちに無菌室が登場するというイメージを視聴者に植えつけておく意味合いがあったのかもしれない……(後略)
天才の考察じゃん(震え) こういう作り手の暗喩、大好物です。
そうです。あなたは僕の父親だ。それこそが同情すべきポイントです。あなたは僕の父親だから、こんな風に世界中が敵となったのです。
辛辣で、限りなく黒に近い灰色な言葉で好きだ。児童書レーベルでこんな言葉に出会えるとは。
僕の父親と口にしていながら、城ヶ崎鳳凰を俯瞰して愛おしむような言葉選びも好きだ。
ここがあとがきで作者さんが触れている「親と子の関係性」の肝か。
こうして会いに来た奴は、おまえだけだ。息子のおまえだけが、俺と話をしに来てくれた。
僕は城ヶ崎アクト。あなたの息子です。ねえ、お父さん。これからも僕は、定期的にここへ来ますよ。あなたと話をしにきます。なぜって、僕たちは親子だから。あなたは、僕の父で、僕はあなたの子だ。そのことはゆるぎない事実なんです。だから、お互いがさみしくならないように、僕はここへ話をしにきます。
そういえば、面会室も無菌室を思わせる造りだったな。透明な壁をはさんで、僕たちはこれからも、家族でいよう。
世界中が敵になっても、息子だけは。それは味方という意味では決してないけれど、見捨てはしない。
前世は会社員ということを考慮しても、精神年齢が高すぎる。大犯罪者の一親等なんて、見限らないと自分の基本的人権を守れないのに。
こうなることすら、転生アクトは視野に入れていたのか。葉山ハルを救うという目的のために、城ヶ崎家の未来を斬り捨てた贖罪として。
勝手にするがいい。次に面会に来るときは、脱獄計画の案をいくつか持ってこい。
呆れた。ちょっと素直になったと思ったら、すぐに自尊心を貼り付けようとする。
私、城ヶ崎アクトはこのたび、この屋敷から退去することをお伝えいたします。長い間、この家でお世話をしてくださったこと、本当に感謝しております。ここでの経験は私にとって貴重な財産となりました。以前、大変なご迷惑をおかけしましたこと、ここでお詫び申し上げます。この数年間は、ひたすら猛省する日々でした。私を見限ることなく、お世話をしてくださった皆さまのやさしさに、心を打たれました。本当にありがとうございました。私は新たな道を歩むことになりましたが、この屋敷で得た経験は決してわすれません。これからも皆さまとのご縁を大切にし、つながりを保ちたいと思っています。
すごい。退職の挨拶と本質が完全に一致してる……。私こんなに立派なスピーチできない。
あとファン活動って児童書作品に登場するほど一般化してるの? 怖すぎる。公式に認知されたくない。
一言一句が好きすぎる。【彼女】の存在が葉山ハルと同化した世界線、尊い。それはさみしいことではあるかもしれない、でも悲観するようなことじゃないと思う。
あとがき
ほとんどの場合、主人公は前世の記憶を持ったまま新しい人生を開始するのです。すると主人公にとって両親という存在が、なんと四人になってしまうのです。
前世の人生に残してきてしまった自分の両親。
そして、新しい人生で自分を産んだ両親。
この観点で転生作品を読んだことがなかった。カルチャーショックに近いものがあった。ここまで含めて楽しめたら、物語に深みが出そう。
異世界を舞台に生き抜くことをテーマにした【転生もの】の場合、主人公にとって新しい人生の両親は、親という絶対的な存在としてではなく、家族の一員として、主人公が守るべき対象として、物語に関わってくることが多い印象です。
【転生もの】は、親とこの関係性を、あらためて問いなおす装置なのかもしれませんね。
待ってこの観点を踏まえて、異世界薬局とか本好きの下剋上とか読み直していいですか?
作り手としての注目ポイントまであけすけに語り尽くすなんて、この作者さん、本気すぎる……。
2巻を読んだときも思ったけど、展開も、登場人物の言葉も、途中出てくる医療用語も、犯罪との向き合い方も、あとがきまで含めて、大人が読むからこその魅力が濃縮されてるのよね。残り半分を一気読みしてしまった。大人も本気で楽しめる作品。
3巻くらいで完結だと読みやすいし、これまでのあらすじがあるの記憶喪失人間にはありがたすぎるな。
今検索して知ったんだけど、この作者さん、『失はれる物語』を書いた乙一さんと同一人物で別名義なの!?
面白くないわけがないのだった。