読書記録

読んだ本の感想まとめ。

アリスとテレスのまぼろし工場

この手のセカイ系の物語ってネタバレなしで感想を語るの無理なんだけど、期待値を上回る面白さだった!!
今日は朝からTwitterに閲覧制限がかかっていたせいで今すべての気力と物欲が逃亡しているので、この本の存在がなかったら精神が瓦解しかけたまま一日を終えるところだった。

読了してみれば、セカイ系、世界に運命づけられた男女、現実とまぼろし、世界から切り離された少女、不変の強要、出会うはずのなかった三人、そして世界が許さなかった恋。好きな概念が多すぎる。
この話は主役二人とその友人たちにとってはハッピーエンドで、だけど一部の大人たちにとっては真っ黒なバッドエンドで、そして五実ちゃんを送り出して笑い合った次の瞬間に世界は終わったかもしれない、だから読者にとってはバッドエンドかもしれなくて。

この秋に劇場版が公開されるそうなので、そっちも観に行こうと思う。先に原作小説に出会えてよかった。
劇場版サイトにキャラクター紹介がない理由が今なら分かる。なにを書いてもネタバレになるわ。
後半は劇場で観た方がきっと臨場感がある。文字で表すには、日本語という語彙が不足している気がする。作者さんの文章力云々の問題ではなく、日本語という言語に限界を感じる。

いいなあ。どれもこれも、私には手に入らないものだ。

人間関係、進学、転職、病気などなど……私はなにかと変化を怖がるけれど、常に変化していく、ループしない世界というのは、ただそれだけで幸福なのだと認識した。
この体も、もう終わりに向かっているけれど、それは嘆く必要はないことだ。この世で最も不幸なのは、凍結された時間と空間の中で不変を強要されて生き続けることなのかもしれない。例:涼宮ハルヒシリーズのエンドレスエイト

他のものは、ぜんぶあなたが手に入れて。だけど、正宗の心は私が手に入れる。

五実ちゃん、睦実さんが喉から手が出るほど欲しいものがこれからたくさん手に入るのに、いまこの瞬間に一番欲しいものは、それだけは手に入らない。世界に、運命に拒絶された恋心。つらい。
あれだ、妖狐×僕SSのIF凜々蝶さんと御狐神くんを彷彿させる。でも尊い。叶わないからこそ尊い

そして、挑むように睦実を睨みつけながら、その瞳に、大粒の涙をためながら……ベールを睦実の髪につけた。

ここ! 五実ちゃんが失恋と、恋敵と、なにより母親を越える瞬間!
ウエディングドレスのベールは、正宗のパートナーは睦実さんと認めた象徴としてのモチーフ。
佐上父、なんで神格化した存在に対してウエディングドレス用意したのきめえって思ってたけど、このシーンに持っていくための布石だったのか……。

だいきらい。だから……いっしょに、いかない。

そして、この世界との決別。おそらく「五実」としては、初めて気持ちを偽った瞬間。でもそれは、責められるべきことじゃない。

正宗がいるから! 私は生きてるんだって、細胞からわかる……今日、この世界が終わったっていい。

この強烈な純粋さ、光属性、やっぱり五実ちゃんのお母さんだなあ……。
細胞が訴えてくるような強烈な心を、私も綴ってみたい。

この場所は、沙希の、初めての失恋が生まれた場所だ。

物語の最終行として好きすぎる。このあと一切あとがきがないのもいい。
失恋を痛くて消したい過去ではなく、愛おしい自分の一部として捉えているのが好き。

私は哲学の知識はまったくないので、タイトルも「アリストテレスをもじっている」ことしか分からないけれど、大学で哲学を専攻していた人などからしたらピンとくるものがあるのだろう。