読書記録

読んだ本の感想まとめ。

名探偵のままでいて

一章~四章でハートフル日常系ミステリーだと油断していて、ラスト二章で脳天かち割られた感じ。
デュアルサスペンスも過去が紐解かれていく過程もストーカーの真相も面白かった、確かに面白かったけど、胸中はしんどいし読後感は正直あまりよくない。
特に末期がんの患者のご家族の方、もしくは末期がん患者本人は不意打ちでボディーブローを食らうので要注意。
あと、海外の古典ミステリーに詳しい読者なら120%楽しめると思う。

第三章 プールの〝人間消失〟

うわーーーーー先入観と心理的盲点を突かれたーーーーー! こりゃまいった。
解決編で一度真実が語られたあとに、それを更新してくる、しかも最初の真相よりずっと人間味があって沁みる物語を聞かせてくれる名探偵最高。
最初の真相でもミステリーとしては立派に成り立ってるのに(そして私はこっちの真相も嫌いじゃない)、実は回収されていない伏線があって、それを紐解くと大団円なのがミソ。デュアルサスペンスって安楽椅子探偵ものでも成立するんだ。
おじーちゃん先生はずるいじゃん。そりゃあ笑いが止まらないはずじゃん。楓先生はピエロ……。

第四章 33人いる!

ソーシャルディスタンスをミステリーに絡めるとは、あっぱれ。現場の知恵にも拍手。
経験していない大人世代より、実体験がある10代の読者の方がタネに気付くのは早いだろうね。
あと「こそあど問題」は推理小説ならではの仕掛け。
違和感は覚えても、そこから真実に辿り着けるかは全然別問題なのよ。
正直33人目にまつわるエピソードのくだりは性善説すぎて私には無理だったけど、まあ、この作品の主題は青春群像じゃなく謎解きだし、いいか……。
12歳という年頃の少年少女がみんなみんな、こんなふうに清潔な価値観の持ち主だったら、学校はもっと平和だと思う。

第五章 まぼろしの女

今回はデュアルサスペンスじゃなくて、楓先生とおじいちゃん先生の過去が明かされる話だった。
岩田先生が留置場に入れられたときは、前話までと比べて50倍くらい重い展開にページを捲る指が(なお電子書籍なのでこれは比喩)遅くなったけど、2人の過去の方が300倍くらい重かった。
事件の真相が霞んだ。10代で片親になった私の過去なんかダンゴ虫みたいなもんだと思った。
未だに稀に母の夢を見ては枕を濡らしてる自分が恥ずかしい。心が弱すぎる。
まあだから5年もうつ病患者やってるんだけど。
末期がん患者が登場したのもしんどかった。死亡日2〜3日前に家族に予告されるのかよ。

あと末期で入院で全身にチューブが繋がれる時期になると、患部が痛くないor痛み止めが効いてない時間の方が短いみたいな描写があってなおしんどい。みっともない姿を周りに見せたくない。
やっぱり通院投与で40度の高熱出して経口摂取がしんどいとかほざいてるのは甘えなのか、こんなのまだ底じゃない。

しかも私は実質絶縁状態とはいえ親兄弟がまだ健在だから。
葬式は知らんけど、死後私の死体を火葬に回してくれる人がいないことを心配する必要はないから。
何より私は母から愛情をたくさんもらった! 13年間も!!! それだけで幸せ者だ。
楓先生は……楓先生は強いなあ。私なら、母の死の真相を知らされた瞬間に心が壊れて、廃人状態になると思う。

あと四季はなんでこのタイミングで告げた?
読者も楓先生もそういうテンションじゃなかったのに。空気読んでほしい。

終章 ストーカーの謎

これこそデュアルサスペンスであってほしかった……主人公には悪いけど、ストーカー自体が存在しない犯罪であってほしかった。
真犯人の正体が、楓先生にとってもおじいちゃん先生にとっても惨すぎる。
そしてクライマックスでもなお理性を忘れなかった先生の強さが怪物級。

真犯人は無期懲役刑になってほしい。二度と一般社会に出てこないでほしい。暴かれた犯人の行動・性癖の何もかもが醜悪で吐き気がする。
こんな人が二人のそばにのさばっていた事実が一番おぞましい。
楓先生が好きになったのは岩田先生か四季か……まあおじいちゃん先生が幸せそうだから、どっちかなんて些末な問題か。

あと、ラストの大賞に関する書評は完全に蛇足だと思う。えらい人が無理やりねじ込んだ臭がする。
読者はこの作品の本編や解説を読みたいのであって、落選した作品の書評には興味がないんです、作者さんたちには悪いけど。

卒業する皆さん。あなたたちに無限の未来など待っていません

すべては有限です。終わりがあります。若さという武器は、あっという間に錆びついていってしまうのです。
望む未来を手にしたいのなら――どうか、冒険してください

卒業式だからってキラッキラの未来を促す教師より、確かな現実を示してくれる教師の方が人として信頼できるな。