- 作者:萩原 麻里
- 発売日: 2020/05/28
- メディア: 文庫
一番罪とは縁遠く見える人物が真犯人でしたね。第三者から見ると「どうしても殺すしかなかったのか、彼が赤江家とも大島家とも接触を断って、ありふれた若者として生きていく術はなかったのか」と思ってしまうのだけど、きっと彼はそんなことは望んでいなかったね。唯一心を許していた相手に、自分の本当を認めてほしかった。いわばこれは真犯人の矜持の物語だ。
バカな読者なりに、ドミノ倒しのごとく超ハイペースで人が死ぬじゃん、とは思っていた。死んだ順番を誤読させるトリックだったか。冒頭にある手紙の真意とか、主人公が記憶喪失であることの物語への影響とか、いかにも思わせぶりな要素を見せられた時点で「これはちょっとミステリーを嗜んでいる程度の人間が真相を見破れるタイプの事件ではない」と認識するべきだったなあ、と読者として少し反省した。
一連の連続殺人は人為的な「事件」だけど、最後の最後で二人が命を落としたのは「呪い」だと思う。まさしく「赤江家の先祖代々の呪いが、最後の生き残りを島から逃すまいとした」。
主人公の本名は結局最後まで明かされないけど、そんなものはこの物語においては些末な情報だからだと思う。
表紙からは重い本格ミステリーの雰囲気が漂ってるのに、語り口には時折能天気さが混ざる。作者がラノベ出身だからか。ラノベから孤島が舞台の推理小説に転身って、どういう心境の変化なんだろう。後書きで触れられていればよかったけど、残念ながら後書きがないタイプの本だった。