読書記録

読んだ本の感想まとめ。

キノの旅IV the Beautiful World

第三話「二人の国」-Even a Dog Doesn't Eat.-

  1. この国にないのは愛し合う二人の間の遠慮じゃなくて、秩序と人権。
  2. お見合いは、手段と目的がひっくり返っている。思わず膝を打った。
    1. もっと言えば、家と家の結びつきや子を成すことが目的で、結婚はその手段でしかなく、その方法としてお見合いがあって……。うーん混乱してきた。
    2. でも別にお見合いって、上流階級だけの風習じゃないのが不思議だ。
  3. 典型的なモラハラとDV夫。安全欲求を脅かされ続けても、法律で禁じられているから離婚できないなんて……。
  4. キノもエルメスも、よく言えば自分を守る気概に長けているし、悪く言えば冷徹。
  5. 依頼を実行しない理由が「命は等しく尊いから」とか「その人物の人生を剥奪する権利がないから」とかの被害者目線じゃなく、「ここで刑務所に入りたくない」という自己保身なのが、今まで何カ国も巡ってきた旅人らしい。
  6. 奥さんが滞在期間を確認した理由ってそれ?
  7. つまり、治外法権が全外国人に適用されるってこと? 「外国人の違法行為を見逃すための法律」って、そんなものを作ってなぜ警察組織を社会的に維持できているのか謎でしかない。
  8. 「サンド」、奥さんの名前ではなく、下劣なあだ名だったのか……。
  9. そして、奥さんの前に神は現れなかった。キノが懇願を拒否したから。
  10. これからずっと、病気や老衰で死ぬまで暴力を振るわれ続けるなら、いっそ殺してしまえば。それで第一級殺人者になって死刑になる方が、永遠に近い地獄よりはいいのではないか。なんて思ってしまう私は狂っているのだろうか。
  11. ラストの会話で示唆されているのは、妻が夫の悪辣さを旅人に目の当たりにさせ、同情心を芽生えさせるための工作を示唆しているのか? あるいは、妻が深層心理ではこの環境を望んでいることを示唆しているのか? 真実は分からない。
  12. 二階級特進させよう」というエルメスの言葉、これはおそらく殉職の暗喩。ブラックジョークが効き過ぎてる。
  13. 出国直前に、夫婦の立場が逆転するとは……。似た関係性の夫婦が、この国にはごろごろいそうだ。キノは二人それぞれからの依頼を遂行しなくて正解だった。手を汚したところで何のメリットもないし、再び独り身となって再婚したところで、また大なり小なり問題が生まれるだけのような気がする。
  14. ちなみに慣用句として有名な「おしどり夫婦」。実際のおしどりは一夫多妻制、雄は雌が抱卵期に入ると巣を捨てて、子育てには一切参加せず別の雌と番いになる、という話はググればすぐに出てくる。そのおしどりをモチーフにしたお守りがお土産とは、皮肉。
  15. 人間は支え合って生きていく動物、これは真理だろう。でもその相手として配偶者を強制される必要性を100字以内で述べよ。友人や同僚や隣人ではいけない理由を述べよ。
  16. あとこれはこの小説の発売当時の時代性もあるのだろうけど、配偶者が異性に限定されているのもおかしいよね。
  17. キノが出国間際、警官に口にした脅し文句くらいは許されると思う。

第五話「仕事をしなくていい国」-Workable-

  1. “人間は、人生で楽だけをしちゃいけないんだ。毎日ある程度辛い経験をしないと、だらけてしまってダメになる。人間をぐうたらにしない何かが、人生には必要なんだ。”皮肉だけど、人間社会の真理。自分の足で移動する機会がないと筋肉は衰えるだろうし、生存以外に必要な言葉も使わないと脳みそも衰えるだろうし、ある程度の不安や緊張や自己嫌悪に苛まれないと心だって弱っていくだろう。私はディストピアは思わないし、理にかなったシステムだと思う。この仕組みの発案者は本当に頭がいいと思う。
  2. でもストレスの内容は理不尽が過ぎると思う。「仕事」をする人が仕事できない前提になってる。挙げ句の果てに、週末に天気がよかったことを叱られるってどういうことなんだよ。部下が天気をコントロールしてるの? パワハラ上司も真っ青だよ。
  3. 「若者」の意識が高くて目を剥いた。生まれてくる時代を……間違えたのでは……? 私は、遊びほうけた後の夕方と仕事を終えた夕方は5:5が希望です。
  4. 遅刻して職場への出入りを禁じられたのなら、帰って寝ればいいのに、自己啓発の本を読むって何事……。
  5. 若者の言説を聞いて真逆の解釈をするキノの胆力よ。

第六話「分かれている国」-World Divided-

  1. どっちの国も本質は変わらない。ということを、お互い永遠に認めないのだろう。
  2. そしてこんなことをほざいている私も食物連鎖の真っ只中にいて、ほかの命を殺して生き長らえてる。日本人、魚料理も肉料理も大好き。……生け捕りのまま食卓に並べることは……そうないと思うけど……。

第八話「認めている国」-A Vote-

  1. まあ一人も投票されなかった人は秘密裏に処分されているとは予想がついたけど、まさか執行人が医者とはね。この国の医者の理想は、命を等しく救うことではなく、必要とされた命のみを救うことらしい。
  2. “存在継続を認められなかった人”。うつ病患者にはなかなか辛辣な字面だな。その人がその人であるだけで存在継続してはいけないのか。そうだよな、どんなに綺麗事を並べたって、実際のところそれが許されるのは赤ん坊くらいだ。
  3. でも誰からも投票されなければ医者が裏で殺してくれて、自殺にはならないな……と夢想してしまった。生きると決めて生きていくことも、かといって自発的に死を選ぶこともできないだけだ、私は。
  4. 医者が処分を失敗するってどういう状況だろう。同姓同名を取り違える? もしくは、政治側で集計ミスが発生する?

第九話「たかられた話」-Bloodsuckers-

  1. 斬り殺す相手を「あと八つ」などと数えているところから、シズが盗賊たちを人間として認識していないことが分かる。「頬についた脳のかけら」って……。
  2. 住民の反応は予想通り。シズの価値観にまるごとは同意しないけど、「人が人を助ける」という行為は、見返りを求めてやることではない。見返りを求めた瞬間に軋轢が生まれる。相手にとって必要だと思ったから。それ以上でもそれ以下でもない。
  3. シズがしたことを「たかられましたね」と言った陸の言葉のセンスも独特。
  4. 救済や善意と呼ぶにはあまりにも醜悪な行為。

第十話「橋の国」-Their Line-

  1. 最後の一人は、背骨が必要な場所でうつ伏せになって、ただただ死を待ち望んだということ?(読解力不足)
  2. 国は滅んだのではなく、橋に姿を変えたのだ。そこにはもう生命はいないけれど。
  3. 人体の骨を材料としたことを、そのために殺し合ったことを非難する人はいると思う。むしろそれが普通だと思う。じゃあ、どうすれば不足している材料を調達できた?

第十一話「塔の国」-Free Lance-

  1. 自由の本質ってなんだろうねえ。キノに助けを求めた男は、彫刻を彫る生き方を得たことで自由になったようには見えないけど、本人が幸せならいいのか。
  2. 確かに設計図に沿ってレンガを積んでいくだけの作業より、これから描くものを決められる彫刻の方が自由なのかな。