読書記録

読んだ本の感想まとめ。

魔女の旅々2

第一章 魔法使いのための国

魔法使いのための国であるなら、いっそアニマは国外追放にして別の国に住んでもらった方が、お互い幸せなのでは? と思うけれど、この国の魔法使いとしては、ストレスの捌け口が消えるのもそれはそれで困ると文句を垂れるのだろう。
……というふうに、酷い迫害だと糾弾するのは簡単だけど、人類は本質は同じ差別をしてきてるし、私自身の中にも人を見下す気持ちがゼロとは言い切れない。

例えば路上生活者に対して不憫と感じるのは、私が彼らを下に見ている証ではないのか?
彼らより自分の方が社会的な存在である、という自尊心が働いているのではないか?
イレイナは「価値観が合わない」と言ったけれど、多様性が叫ばれる昨今、この国のような価値観も一つの考え方として共存していかなければいけないのだろうか……?

第二章 平和的な武器の使い方

奥様たちがあまりにも策士。というより、村の将来を長い目で捉えている。
共通の仮想敵を作ることで、二者間の軋轢は和らぐ、かあ。戦争の本質かもしれない。

第三章 逃げる王女。追うのは誰か

やっぱり王子はミスリードだったか!
意外と話の分かる王子でよかったというか、話が分かりすぎるというか……。
彼が同性愛(特に女性)嗜好に目覚めたのは予想外だった。
同性愛が活発な国の人口が減少するのは、仕方ないな。まあ、国は遅かれ早かれ衰退するものだし……。

第五章 お洒落の先駆者たち

結局服の流行って、売り出す側の裁量次第だということを痛感させられた。どこの業界でもそうか。
というか、旅人の服を真似た格好が短期間で流行するのは文化と言えるのか?

第六章 雪がとけるまでに

初・ミステリー仕立てで嗜好に合う。
病弱な近親者は現在は存在しない&少女は精神に異常を来しているパターン。
役人が姉妹に手を差し伸べたのは福祉というより贖罪で、周囲の人が彼女を避けるようになったのは、正気を失ったからか。いやそれでも、正規のルートで買おうとしたのに拒否するのは意味不明だが?

→あー、パン屋とのやり取りも、無人販売でのやり取りも、精神疾患による幻聴&幻覚かあ。しんどい。ただただしんどい。
私はこの症状が出たことはないから、想像することしかできない。
周囲の人たちもコミュニケーションが取れないだろうが、本人も毎秒が地獄なのだろうな。
この物語が二者の視点で構成されている理由がよく分かるよ。

死体を生者だと思い込んでいる場合って、イレイナがやったようにショックで目を覚まさせる→諭す、しかないのかなあ。
刺激が強すぎるような……。イレイナの言葉がド正論すぎて耳が痛い。
逃避していい状況は存在するけど、エリーゼの場合は違ったってことか。

最後のイラストがずるい。全体的に不幸と希望の匙加減が絶妙。好き。

第七章 残された遺産

イレイナへの移送代は結局支払われないのだろうな、とまず思った私は冷酷なのだろうか。
親の負債って確か日本の制度なら相続放棄できたと思うけど(その代わり財産も同時に放棄しなきゃならないらしいが)、この国は遺言がすべてなんだろうか?

第九章 爆弾の話

イレイナは「風化していくかもしれない」というけれど、風化していくつもの時代を越えて、憎んでいた理由も分からなくなったのに、そのままお互い憎しみ合い続ける……という未来が待っているような気もするよ。

第十章 土産話

自分の書いた小説が知らないうちに人に読まれ、出版され、ベストセラーになり、あまつさえグッズ化やレストランだなんて……想像しだけで胃がシクシクする。他人事ではない。
それはまだ書きっぱなしなんだ、推敲と校正をさせてくれッ!

第十一章 怠け者を狩る者たち

私も不労所得に憧れるタチだからあまり偉そうな顔はできないけど、ここまで怠け癖があるのは、先祖の遺伝子になにかが組み込まれているんじゃないか。
正義なんて、自分の都合の前じゃ脆いものよ。

第十二章 蘇る死者の楽園

復興計画に関して言うなら、香水が効く対象というより、犬を探すおばさんの所在を確かめなかったことが最初の綻びだと思う。
彼女から目を離さなければ、イレイナが再び訪問したときも辛うじて生き残りがいたのではないだろうか。

第十三章 故郷のために

短いけど、胸に突き刺さった。
故郷の者を救うためにしている努力が、より多くの人間を不幸にし、巡り巡って故郷すら滅ぼしてしまった……。
誰も幸せになっていないようでいて、毛皮や牙を手に入れた国は幸せになっている。
あらゆる方面にとっての完全な絶望なんてないのかもしれない、と思うと溜息が出る。悪い意味で。
戦争だって、特需景気があるものな……。

第十四章 古びた国とネコ神さまの再生

イレイナが逃げている理由、涙を流している理由が明かされていく過程が好き。
彼女は恐怖で泣くような繊細なタチじゃなかった。