- 中盤以降、勇者を殺した「真犯人」が何度も覆されてどんどんのめり込まされていった。
- タイトルの問いに答えるとするなら、勇者を殺したのはシンプルに魔人であるし、アレスに期待した巫女でもあるし、魔王を倒した勇者自身でもあるし、勇者に期待した村の人たちでもあったのだろう。どの答えも間違っていないと思う。
- これから勇者、魔王、王様、勇者の褒賞として献上される王女。この関係性のRPGを見かけるたびに。この作品を思い出しそう。
- 章が細かく分かれていて、普段一般小説を読まない人間にも読みやすかった。
- レオンもマリアもソロンも、共に戦った勇者を語るその口調が悪辣すぎて、同じパーティーと言えど、関係性の内情は所詮こんなものかとテンションがダダ下がりする。
- アレスの章で母親の口から語られた従弟の存在から、多くの読者が、勇者が旅の途中で入れ替わったことに気づいただろう。村の人たちが語る勇者像と、レオンたちが語る勇者像に乖離がありすぎた。
- ザックではなく、真に勇者アレスが魔王を打ち倒す世界線も存在したのだろうか。したのかもしれないが、その場合、勇者と王女は結ばれなかったと思う。
- 村人として平穏に生きる勇者ザックに「好きな人と結婚する、っていう約束を果たしに」と王女が告げたシーンは、全私が五体投地した。あまりにも尊い。彼女は王族として勇者の生き様を文献にまとめるという事業を遂行していたというより、ただ、好きな人に会いたかったんだなあ。
- 予言者に選ばれた勇者が道半ばで魔人に殺され、その旅の友が勇者として魔王打ち倒したという真実があっさり国民に受け入れられたことは、あまりにもあっさりすぎて違和感がある。大きな反発と混乱が起きそうなものだが、そのあたりの過程は割愛されたんだろうか。
- だってみんな、最初から勇者らしい勇者が好きじゃん? 勇者を志した時点で、剣技も魔法も回復術もろくに使えなかった泥臭い勇者を、国民が万歳三唱で受け入れるだろうか?
- ザックが国王として即位する未来はあまり想像できない。かといって、国王の右腕――大臣のような立場に就任する姿もあまり想像できない。
- 彼は権力で人を守るよりも、自身のその剣と腕で人を守ることを選ぶんじゃないだろうか?
- だから一番しっくりくるのは、例えば騎士団長とか。この国のトップは、自力で声を掻き集め、最終的に勇者の正体と予言者の正体に辿り着いた王女に与えられるべき立場だと思う。
- 学院時代のザックに対するマリアの所業は、非人道的という一言で片付けるにはあまりにも惨い行為だったけれど、その行為の数々が、巡り巡って結果的に市井の洋菓子店を救っていたのかとわかったら、真正面から糾弾することもできない、悔しい。
- 預言者=巫女の千年にもわたる輪廻はあまりにも壮絶。彼女の精神を蝕んだのは、永世、度重なる失敗、人々を救えないこと……いや、案外「孤独」だったのかもしれない。巫女は外界とは隔離された場所で、ずっと一人だった。
- ザックの生き様が祖父の生き写しすぎて、ひょっとして同じ魂を持って生まれてきた者なんじゃないかと錯覚してしまう。