読書記録

読んだ本の感想まとめ。

逆ソクラテス

ソクラテス

結局久留米先生の価値観に変化があったか否か、草壁が野球選手になったかどうか言及されていない。起承転結の転までみたいな話。自分が書き手だったら絶対にオチをつけなきゃ気が済まないけど、これが商業作家の技巧か。断片的な「その後」だけ描いて、読者側にあれこれ想像させる技巧。
少なくとも、安斎が草壁に残した爪痕のようなものはあると思う。

安斎は洞察力がありすぎて絶対に人生二周目だと思いながら読んでいたけど、そうではなく、過酷すぎる家庭環境がそうさせたのだろうか。保護される子供でいることを許さないような環境が、彼の精神年齢を一足飛びにさせたのだろうか。
土田経由で「チンピラみたいだった」と描写されているけど、それこそ、外見で現在の状況を決めつけたら久留米先生と同じだ、という暗喩なのかもしれない。チンピラみたいな恰好=暴力団の末端組員、と定義する根拠はない。
固定概念や決めつけ、誰の中にもあるよね。ゼロにはできないよね。でもゼロにはできないことを知りながら生きていくことが、何より大事なのかもしれないね。

スロウではない

伊坂幸太郎先生には申し訳ないのだけど、胸糞悪……。まあそれを狙っているのだろうけど。
私は小学校時代村田さん側の人間で、足の遅さや運動神経の悪さは下から数えた方が早く、かといって成績がトップクラスなわけでも友達が多いわけでも美人なわけでもなかった。だから渋谷さんも高城さんも1ミリも肯定できない。
「敵を憎むな。判断が鈍る」ってどういう意味? ゴッドファーザー見たことない。憎むでしょ。辛い目に遭った子供たちの憎悪という大切な感情を否定しないでほしいし、自分が世界の中心だと思ってほかの人の尊厳を汚す人間は、一生月経困難症とか痔とかで苦しんでほしい。地獄に落ちろとまでは言わないから、人生の一生の間くらい一定の苦しみを受けてほしい。そういう妄想をするくらい、村田さんは許されていい。性格が悪くてごめん。

でも村田さんは、そういう道は選ばなかったんだね。私には1ミリも理解できないけど。
あなたが幸せならよかったです。

オプティマ

前話とは打って変わって痛快な話だった。
久保先生が言いかけた「私はそれだけでも」の言葉の続きは、読者側に委ねられているのかな? 「私はそれだけでも、彼女への哀悼だと思います」? ううん、哀悼って単語は日常生活でそうそう使わないし、彼女の死を示唆するような言葉選びはしないか。潤君のお父さんは、恩人の死を知ることはないのだろうな。

だから君たちは心の中で、可哀想に、と思っておけばいい。この人は自分では楽しみが見つけられない人なんだ、と。人から物を奪ったり、人に暴力を振るったり、彼らは結局、自分たちだけで楽しむ方法が思いつかないだけの、可哀想な人間なんだよ。

教師と小学生の話題にしては辛口すぎる。後ろに並んでいた保護者からの心象は下がったかも分からない。でも私は小学生時代、自分たちを子供だからと舐めて対話せず、こうして一人の人間として扱ってくれる先生の方が、成人してから記憶に残っている。

福生のお母さんはバリバリのキャリアウーマンで、福生が同じ服を着続けているのは被服費を賄えないとかではなく、もしかしてだけど、すでに故人になっているお父さんがプレゼントしてくれた服だからってこと……!?

お母さんから「お友達なのね?」と聞かれた福生がなんと答えたのかは明示されていないが、「にやけたまま」という描写から察するに、「評判の悪い同級生。友達じゃないよ」と答えていてほしい。さっきの騎士人の言葉をそのまま返す、ではなく+αで頼む。傲慢男児にはカウンター食らわせとけ(私は性格が悪い)。

アンスポーツマンライク

マトリョーシカみたいな作品。「そのときのことを思い出していた」という場面切り替えで、前のシーンが上書きされていく。今の時系列は結局どこにあるのか、読み終えてみないと分からない。

バスケは体育の授業でしかやったことがないので、ルールがまるで分からず。選手の位置関係を想像しながら読めない。ただ推敲と校閲が大変だっただろうことだけは伝わる。

通り魔の逮捕劇は、男子高校生が5人揃っていたから連係プレーで勝てたけど、1~2人の場合だったら怖いよな。かえって刃物がこっちに刺さりそうで。
彼らが加害者の恨みを買わないか心配している。

だって、一番効率的な教育は、型に嵌めることだから

ギャーーーー教育業界の真理。団塊の世代が第一被害者。ベイカー街の亡霊で優作さんが言ってたやつ。

社会に戻ってきた犯罪者との距離感かあ。
もちろん理想を言えば死刑か終身刑でもう二度と表舞台に出てこないでほしいけど、犯罪者全員に重い刑罰が下されるわけじゃないし、そもそも刑務所の部屋数にも限りがあるし。
私も正解が分からない。裁判官や刑務官みたいな、犯罪者に近いところで日々生きている人の考えが聞いてみたい。

うわ……、結局加害者から恨みを買って、今度は拳銃で復讐される展開になってる。
でも何度人生をループしても、あの5人は子供たちを救うために駆け出すのだろうな。高校生のときも、今も。

“顔に罅が入っている”という表現すごいな。シワじゃなくてヒビ。読めなくて辞書検索したわ。
加害者の憤怒の度合いがより重みを増す言葉選び。

もしアンスポーツマンライクファウルだったら、相手はフリースローが与えられ た上で、さらにリスタートの権利がもらえる。そのことを僕は、男に伝えたくなった。

実際に伝えたかどうかは明示されていないが、これが歩なりの、磯憲への答えなのだと思う(私はとても持てない感情)。

この話、全体的に躍動感と緩急のリズムがすごい。ドラマ化できるんじゃないか。きっと画面映えすると思う。
バスケのルール分からないからって、まるっと飛ばし読みせずに真面目に読んでよかった!

逆ワシントン

子供、それもよその子に「大人を信用しないで、疑うときは疑え」って言える大人強い。だって学校では「人を信じることは素晴らしい」って言われるんだもの、子供からしたらわけわからんよな。でも成人して酸いも甘いも嚙み分けると、その言葉の重みが分かるよ。

家電コーナーでのシーン、大金星を勝ち獲ったバスケ選手はあの5人組のうちの一人で、店員は子供たちを二度襲った加害者……か?
こういう、短編同士がリンクしてる構成大好き!