読書記録

読んだ本の感想まとめ。

推し、燃ゆ

この世に実在していて、人を殴って婚約して芸能界を引退する推しと、ライフラインを切り崩しているアイドルオタク。
何もかも私の感覚とは違いすぎて、共感できるところがほとんどない。

推しのいない人生は余生だった。

これは分かる。推しの存在が(私の場合は二次元だが)そのまま私のアイデンティティになっている。
とはいえ推しを推すことが私の価値のすべてでないことも(うつのどん底にいたころの自分と比べると)もう知っている。
この主人公はまだ知らないんだな。未成年で高校中退で無職で持病持ちってなると、自分の人生を1ミリも肯定できない気持ちも想像はつくが……。

強く思ったのは、実在の人間を推すことは、二次元のそれとはまったく性質が異なるということ。

綿棒を床に投げつけたところから先に1シーンあるのかと思ったら、なんだか唐突に終わってしまった。最初から最後まで相性がよくなかったな………………

主人公はこの先大丈夫なの? 大丈夫じゃないよね。このまま朽ちて餓死していくのかな。
でも「当分はこれで生きよう」ってあるから、今日明日のうちに尽きるとか、自分から絶つみたいな話ではない。そう思いたい。

まあ何度か希死念慮を経験した身としてはね、痛いことも苦しいことも嫌だから自らは実行しない、そんなんでいいんだと思うよ。
明日の自分の姿が想像できなくても、ただ自らそれを選択しないだけで、いつの間にかその選択肢が自分の中から消えていたりする。

今こんなことを言うのは酷かもしれないけど、新しい推し(生きる糧)はいつの間にか見つかるもんだよ。
主人公の場合は推し=恋愛感情というわけではないようだから、一生で一人しか推せないなんてこと、きっとないよ。

しかし本書を読んだ時、彼らの背骨とその喪失を描いた本書もまた、誰かの背骨となりこの世界を生きていくために足りない何か一つになり得るだろうという確信があった。誰かの手に取られ、背骨やあばら骨として埋め込まれ誰かの中で生きる無数の「推し、燃ゆ」を思うと、嬉しさと愛しさで爆発しそうになる。

本書の中で最も尊みを感じたので、ぜひとも引用しておきたい。もし本編があまり楽しめなくても、解説まで読んだ方がいい。
そうだよね、この作品を「推し」として生きる人もきっと世の中にはたくさんいて、その人の背骨やあばら骨になっているんだね。それはとても尊いことだ。