読書記録

読んだ本の感想まとめ。

レプリカだって、恋をする。

読了してみれば、電撃文庫よりメディアワークス文庫あたりの方がしっくりくる作風だった。
文の質感が硬派だし、全体のテンションや根幹のテーマが、THE・ライトノベルというよりはライト文芸
と思ってしまうのは、もう時代遅れなのかな(涼宮ハルヒシリーズや俺の妹がこんなにシリーズがど真ん中な世代)

ほとんどジャケット買いのようなもので、ライトな恋愛小説をさくっと読むつもりだったけど、思いのほか印象に残った。
あ、ジャケットは可愛すぎるので、A4クリアファイルにして売ってくれませんか。いつまででも眺めていられる。
前半はひたすら甘じょっぱくて、高校生同士の恋愛ものでしか摂取できない栄養分が確実にあった。
ハーフアップのくだりや動物園デートも好きだけど、遠足で「そこにいるのに」話しかけられない、究極の遠距離恋愛の構図が、すれ違いに目がない私にとっては好物すぎた。
静岡県民なら、実在の施設と照らし合わせてもっとリアルに楽しめそう。

中盤は、「オリジナル」には秘密の甘いデート、から突き落とされて、テンションの差で風邪が引ける。
秋也視点の掌編がいいスパイスになっていたと思うし、しがないミステリー好きとしては、文芸部に入部した真田秋也=レプリカが判明するくだりに興奮した。お前もか!!
オリジナル×レプリカの両片思いでも楽しめたと思うけど、この2人はレプリカ×レプリカだからこそ、後半のアイデンティティのメッセージに繋がるんだと思う。
真田秋也が唯一無二の存在だったら、たぶんナオを繋ぎとめられなかった。

恋の話でもあるし、人間のアイデンティティの話でもある。
セカンドにも痛覚があって、オリジナルの痛みを共有している事実が分かるシーンはしんどかった。
生理痛でベッドから起き上がるのが億劫なレベルの痛みを、鎮痛剤で無理やり抑えて登校するって……。控えめに言って地獄。私も生理痛でベッドに縛りつけられてきたから分かる。

ナオがアキを助けて電車に轢かれるシーンは、直接的な痛みの描写がないだけまだマイルドだったのかな。
直後の素直との日常シーンで一時的に中和効果があったけど、入水自殺(未遂)のシーンでナオの心の叫びが叩きつけられていて、かえって日常シーンを苦い味に変えていた。
私はナオの行為をバカだなんて思わない。アイデンティティを破壊されて、一度殺されたのにまたこの世に呼び戻されたら、精神がぶっ壊れるのは想像できる。死ぬほど痛かったのに死ねなかったなんて。
ナオが死ななくてよかったなんて安易に言わないけど、ナオが生きる理由を見つけたことは喜ばしい。

「俺がいるけど、どう」
それだけじゃだめなの、って、ちょっと不満げに言う。

推しの旦那に言わせてみたい~~~~~。
でもナオの精神の依存先がアキただ一人という状況がずっと続くと、彼が天寿を全うしたあとに後追いしかねないので心配。
依存先、コミュニティの所属先をたくさん増やしてほしい。
人は一人きりでは生きていけないけど、二人きりだって生きていけないのだ。

真田秋也を殺そうとした殺人未遂犯のお咎めがあれだけだったことに納得がいかないし、
真っ先に疑われる状況でなんの変装もしていなかったことにも納得がいかない。
どんでん返しを疑って、性善説の登場人物に無駄に嫌疑をかけてしまった……。罪悪感。

ラストは大団円。ちょっとご都合がよすぎる気もするけど(セカンドが消える要因は、オリジナルの意思だけなのかな?とか考え始めると、ナオたちの人生のリスクは数え切れないように思う)、頭の中お花畑と揶揄されてもいい、
2人が幸せならOKです(クソデカボイス)。これからもお互いがお互いの唯一無二であってください。

私も作者さんと同じように「自分の複製人間がいたら?」って妄想してみたけど、

  • 自分と同じ顔がもう一人いるなんて気持ち悪い(自分の顔面が大嫌い)
  • 注射の痛みや高熱や食欲不振に苦しめられる人間なんて、私一人で充分。まったく同じ体調不良に喘ぐ人間がもう一人いるなんて無理無理の無理
  • 推しカプをこの世に生み出すのはこの頭とこの指だよ

……という気持ちが膨れ上がってきたので、林檎の葉のセカンドが誕生することは永遠にないでしょう。