読書記録

読んだ本の感想まとめ。

11文字の檻: 青崎有吾短編集成

加速してゆく

事故発生当時、私は小学校高学年で、悲惨な事故だと認識していたはずだが、あの頃の記憶がかなり風化していたことに打ちのめされた。
実際に起きた事故と創作が上手く融合した傑作だと思う。
作中に出てくる固有名詞が、時代性を雄弁に語っている。
特に金八先生第6シリーズは、物語の楔になっていて泣きたくなった。
普通に暮らすとはどういう意味なのか。この子の生きづらさは、18年後は軽減されたのだろうか……。
事故発生当時は浅慮すぎて何も分からなかったけれど、この事故を亡くなった運転手1人のせいにして単なる電車事故として消費せず、本質を伝えてくれたジャーナリストたちがいてよかったと思う。

噤ヶ森の硝子屋敷

犯人が使ったトリックがシンプル&盲点だった。
結局動機は、建築家の隠れ崇拝者だからなのかな。
事件発生の経緯説明パートに比べて、推理編が短すぎて笑った。まさに電光石火。バランス悪!
探偵が優秀すぎても、私みたいな推理できない読者は置いてけぼりにされる(笑)
探偵と助手のキャラクター性がかなり独特で、実際こんな人が身の回りにいたらストレスこの上ないけど、物語の登場人物としては印象的。
またどこかで機会があったら読みたい。

飽くまで

サイコパスが過ぎて吐き気がした。頭の構造が根本的に違いすぎる。
この人に人権を与えていいの、というか人間なのこの人? 人間の皮を被った地球外知的生命体じゃないの。
ラストはどういう意味だろう。「秘密を持ち続けることすら飽きて、罪をすべて告白する」という示唆だろうか。
→あ、まだ先があった。ラストシーンじゃなかった。予想は当たったけど理解不能

恋澤姉妹

姉妹の殺戮ももちろんぶっ飛んでいるけど、自らの眼球を抉ったことを「もういらないと思ったんだよ。一番美しいものを見たからね」と表現した老人も常軌を逸している。
両目をくり抜かれるに至った経緯ってもっと戦慄とともに描写されて然るべきだと思うんだけど、「美しい」という単語で表現できることに戦慄した。こういう人物を正しく変態と呼ぶのではないか。
女性の手負いシーンに慣れていないと、後半で精神をやられる。
姉妹に武器を向けた人間が絶命しないルートなんてなかった。分かっていたはずなのに読了してしまった。
結局恋澤姉妹は何者なのか、最後まで分からなかった。チートキャラが過ぎる。

11文字の檻

立体を想像する能力がまるでない読者向けに、室内のレイアウト図を冒頭に掲載しておいてくれ(ぐるぐる目)

表題作。この話が一番状況設定が特殊で、現代社会とは乖離していて、主人公の知性も狂っている。世界情勢もまるで見えてこない。

相棒の離脱には呆然とした。主人公の策略でよかった。
起承転結の結にストーリーの山場と肝を据える構成力の高さ。

職員の報告が痛快だった。ただ私なら正解できるか不安。
中学時代に学んだ記憶なんて、もう風前の灯火よ……。
この施設には言葉に長けた人間が集められていたようだから、そもそもの水準が完全ランダムの国民より遥かに高いのだろうな。

しかし、主人公を英雄にした最大の要因は結局人望だった。
こんな人権が剥奪された施設に収監され、孤独を強いられてもなお、人は人の中でしか生きられない。
パスワードの正解よりも、私にはこっちの方が皮肉に思える。
正解も人間関係の戒めだし。あらゆる悩みが人間関係に帰結するとはよく言ったものだ。
人の営みを蔑ろにする国家は、いずれ他の国に滅ぼされるのではないかな(と、現実の日本国家に言いたい)