読書記録

読んだ本の感想まとめ。

なぜ僕らは働くのか

中高生がメインターゲットの、労働の意義について考えさせる本。とはいうものの、全漢字にふりがな付きなので、小学校高学年でも読めると思う。「自分の働き方を再考する」という意味では、転職や独立で迷っている社会人や、私のように再出発を目指している人にも強くお勧めしたい。

一章毎に、漫画+解説ページの構成。

今の中高生が羨ましい。進路を迷っている時にこの本に出会えたら最高だと思う。大学生や専門学校生や転職者なら、この本を読んだ後に『最強の自己分析』のワークに取り組むのがめちゃくちゃおすすめ。

第1章 仕事ってなんだ?

仕事による助け合いのネットワークの中で、私たちは生きているのです。

仕事に対しては、お金を払うことでお礼の気持ちを伝えるルールなのです。

何人たりとも忘れてはいけない、現代社会の真理。このふたつを心に留めて生きていれば、誰かの仕事を侮辱したり、悪質クレーマーになるなんてことにはならないはずだ。
強いて言うなら、「税金を直接納めていない子供やリタイアした高齢者や求職者でも、消費税を払うことで経済活動に参加し、巡り巡って誰かの生活を支えている」ことがもっと強調されていれば120点だった。

漫画については、おいデザイナー! 発売前のゲラを家族とはいえ他人にホイホイ見せていいのか?! 守秘義務は?! ってなるんだけど、それ言っちゃうとこの本が根本から成立しなくなってしまうので、このくらいの言及に留めておこう。

第2章 どうやって働く? どうやって生きる?

生活費の円グラフは、できれば単身世帯のデータを載せてほしかった。たぶん単身も夫婦も3人家族もごちゃまぜのデータなんだろうけど、範囲が広すぎて参考にならない。

エンジェル係数の言葉の響きが可愛くてにっこりした。教育費用には血の気が引いた。老後の収入(約22.3万/月)は内訳を示せ。というか、この本のメインターゲットである中学生が後期高齢者になった頃、年金制度が維持されているかどうかすら怪しいだろ。中学生なら理解できる、現実をできるだけ正確に示せ。

QOLへの言及は、全社畜は100回読むべき(特大ブーメラン)。

中学生のうちに雇用形態や個人事業主に関する知識をインプットしておくのは賢い。

第3章 好きを仕事に? 仕事を好きに?

言葉は変えてるけど、要するに就活生がやる自己分析をやってみる章。

中学生のときになりたい職業が決まってるなんていいことかどうかわからないよ

びっくりした。学校では小学生のうちから作文なんかで「なりたい職業とその理由」を求められるからしんどい。人生10年ちょっとしか生きてなくて、世の中にある職業をろくに知らないのに夢を語れるかっつーの。そのくせ先生が納得できない理由を書くと書き直しさせられたり。はあ? 子供は大人の操り人形か? 大人の心理を見透かして、もっともらしい大嘘をつける子供ばかりじゃないんだぞ(私は涼しい顔で大嘘を書いていたタイプ)。

「好き」から夢を探すのは素敵なことだけど、子供は世の中にある職業をほとんど知らないが故に、子供が好きなら保育士さん、漫画が好きなら漫画家みたいに、悪く言えば短絡的な思考をしがち。これは仕方ない。中学生どころか、就活を始める年齢までこの思考をしてる人もいると思う。消費者として生きていれば、直接消費者と関わるBtoCの職種しか分からないのは当然なんだよね。私ももっと視野を広げていきたい。

そして何より、自分の「好き」の本質を捉えることが大事。

第4章 お金があれば幸せ?

お金があればたくさんあれば必ず幸せになれる」ということではなさそうですね。

これは確かにその通りだろうが、基本的人権が尊重される程度の金が無いと幸福感を感じにくいのも事実。ここでは年収400万の人と年収800万の人について言及しているけど、年収200万の人の幸福感がずば抜けて少ないことは完全スルー。そして厚生労働省の調査曰く、200万未満の労働者は全体の28.3%(約3割)にも上ることは一切言及なし。
このページで言っていることは間違っちゃいないが、日本はバブルが弾けてからどんどん貧しくなっているので、こんな子供騙しなこと言ってたら、こう言われて育った子供達が将来年収200万円台に甘んじることになりかねない。「金はあればあるほど幸せになれる」わけではないが、「金が不足していれば絶対に幸せになれない」。H1で書いておいてほしい。

第6章 いまあなたたちに伝えたいこと

不登校生に「学校に行けていなくても、絶望する必要はない」と語りかけているページがとてもよかった。不登校生のための支援機関やスクールカウンセラーの認知度が低かった頃は、学校に行かない子供は異端児扱いだったことを思うと、嬉し涙が出そう。
同じ制服を着て、同じ校則に縛られて、一室に押し込められて同じ授業を受けて、せいぜい40人程度のクラスという集団の中で空気が読めない人は弾き出される。ほとんど軍隊だよ学校ってやつは。一定の年齢に達したら、本人の希望関係なく学校という特殊空間にぶち込まれる。そこに馴染めないからってなんだってえの。社会には軍隊じゃない仕事・生き方が五万とあるわ。むしろ軍隊みたいな仕事の方が特殊だし、精神を壊しやすいので一刻も早く逃げるべき(そこを人はブラック企業と呼ぶ)。さしずめ日本の学校社畜養成所か?
実際に不登校を経験した人の進路の体験談を載せているのもグッジョブ。

できない教科があったとしても、苦手なことがたくさんあったとしても、それは生きていくうえでは大きな問題ではありません。

これは、成人の私でさえ好感を持てる一文なのだから、中学生が読んだら相当勇気づけられると思う。この本で一番大事な文かもしれない。
でもイラストの答案用紙の点数は高得点すぎる。低い方は50以下にした方がいい。69は絶対平均より上だろ。

これ以外にも、6章は「自分の人生に責任を持てるのは自分だけ」「友達と同じ進路に進み、友達と同じ仕事に就き、ずっと友達と一緒に生きていくということはできません」など、仕事というより人生の指南書とも言える内容になっている。

エピローグ

著者が主人公の父親(という設定)がまさかすぎた。や、それでも発売前のゲラを見せるのは出版社的には違法行為だと思うけど。