読書記録

読んだ本の感想まとめ。

ナミヤ雑貨店の奇蹟

ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫)

ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫)

ライトミステリー? SF? ヒーリング? 読了後の今も分類不能

東野圭吾作だからいつかは読みたいと気にしつつも、ライト文芸系でよくあるお悩み相談所的な軽い短編の連作だろうと、頭の片隅で軽視していたことは否定できない。

でも各話のお悩みはツンドラ級に冷たくて救いのないものばかり。三人の会話がそれを和らげてくれていた感ある。さすが東野圭吾ブランド、登場人物の身の上が容赦ない。

映画版も観てみたい。原作で400P超のボリュームをどう2時間に収めたのか謎だけど。個人的に敦也=ズッコケ三人組ハチベエ、翔太=ハカセ、幸平=モーちゃん的なポジションイメージで読んでいたので(東野先生にも那須先生にも失礼千万)、映画版のキャストを知って笑ってしまった。三人とも顔面偏差値高っ。

第二章 夜更けにハーモニカを

視点がいきなりどこの誰だか分からん男に替わって戸惑う。ずっと三人組視点で書かれてると思うじゃん。

正直ミュージシャンの身の上話はフィクションとしてはありがちで、クソ退屈。一章の相談者が現れたあたりからようやく面白みが出てきた。

一章のオリンピックモスクワ大会ボイコット問題もそうだったけど、高度経済成長時代の若者VSバブルを知らない大不況世代の価値観の差が手紙に叩きつけられていて興味深い。

最後の女性アーティストの件で鳥肌が立つ。彼の生み出した音楽が残るって、こういう形でか。生前はほとんど注目されない芸術家っているよなあ。こんな言い方は死者への冒涜かもしれないけど、死をもって完成する芸術はあると思う。

第三章 シビックで朝まで

語り手が雑貨店店主の息子だけあって、店主側の事情が一気に明らかになる。なんなら三章で筆を置いても物語としては成立してると思うけど、さすがにそれは相談の手紙に翻弄されている空き巣三人組が可哀想か。

未来から届いた手紙を読む件では、歓喜と安堵と哀切が同時に襲ってきて心が忙しい。特にグリーンリバーの娘さんからの手紙は胸に迫るものがある。物心がついた頃には既に鬼籍に入っていた母親。何ひとつ思い出がない相手に感情を抱けという方が無茶な話なのに、彼女は思春期真っ只中の中学生にして感謝を抱いていて、ただただ頭が下がる。

そして、グリーンリバーさん御本人にも。親になるってつまり、自分の欲も自尊心も命すらも、何もかもかなぐり捨ててでも子供の幸せを願う覚悟をすることだ。見上げた根性である。

第四章 黙祷はビートルズ

激動の人生。私だったら思春期に転落なんて自尊心が耐えられないと思う。主人公はよく生きた。あの手紙は、数十年越しの両親への追悼なのだろう。世間は意外と狭い。

ビートルズに造詣が深ければ、より楽しめる話だと思う。彼らが伝説的に語られたり、神聖視する人がいる理由がうっすら分かったような気がする。

途中、未来を知っているかのような発言をしていた女性は何者?

第五章 空の上から祈りを

最終章にしてやっと、児童養護施設「丸光園」が一見バラバラな各章を繋げていることに気付いた。静子さん=月のウサギというカラクリにはにんまりした。連作短編集の登場人物や舞台が、物語後半になってリンクしてくる展開がどちゃくそ好き。現役でバブル時代を生きた読者の方が、情景をありありと想像できると思う。羨ましい。

丸光園の館長の姉の元駆け落ち相手(未遂)=浪矢雑貨店の店主とは驚いた。晴美が浪矢雑貨店からの手紙のおかげで人生ひっくり返したのは確かだけど、長く儲けているのだから、彼女が経営能力に秀でているのは確かだと思う。自分なら、不動産から手を引いた時点であらゆる投資に見切りをつけていると思う。億単位で稼いだなら、お金の心配はせずに老後を迎えられるわけだし。

冒頭とラストが輪のように繋がる仕掛け、さすが東野圭吾の技巧というべきか。

最後の手紙が胸を打つ。三人にぴったりな返答だと思った。店主さんの達観ぶりが凄まじい。この文面を死に際に書いたのか。ぶったまげたなあ。