読書記録

読んだ本の感想まとめ。

AI崩壊

AI崩壊 (講談社文庫)

AI崩壊 (講談社文庫)

この国から貧困をなくすためには、命の選別をして無価値な人間に消えてもらうしかないという真犯人の論説、理論だけならまったく分からなくもないんだよな。食糧もエネルギーも有限だから、このまま世界人口が増え続ければ基本的人権が尊重されない生き方を強いられる層が増える。なら生産性のない人間を世界から排除するしかない、っていうのは理論だけを語るなら理に適ってると思う。

でも結局は、「真犯人にとってのぞみという人間を尊重するAIが邪魔だった」というのが簡潔な動機だと思うね。人は己の正義のためなら、他人の命どころかAIを使った殺戮行為すら正当化する。怖い怖い。
地頭のいい人間が語る正義ほど厄介なものってないかもしれない。

望さんの「ルールを守る大切さ、人を大事にする尊さを教えてあげたい」という想いがなければ、のぞみは殺戮を開始していただろうと思うと、故人の意志が存命の誰かを救うことって尊いなあと思う。
コアブートモードののぞみは桐生と望を父と母と呼び、自分が生まれてきた意味を語るのに、人間じゃないんだなあ……。なんだろうこの寂しさは。
ちょびっツを思い出す。誰かの絶望や生きる意味になり得るのに、それらは全部プログラムなんだ。

西村社長が撃たれるシーンはさぞスクリーン映えするだろうと思う。しかし事故とはいえ、警察のAI社会に必要な人財を亡き者にした罪は重い。