読書記録

読んだ本の感想まとめ。

教室が、ひとりになるまで

スクールカーストをテーマにした殺人小説といえば他に『スクールカースト殺人教室』があるけど、あれとはまた違うベクトルの醜悪さがある。
なにが醜悪かって、主人公は真犯人と同じ穴の狢なのに、正義のヒーローよろしく行動しているところが一番醜悪。
ラストシーンで彼に差し伸べられる手が、唯一の救い。体感、0.01%程度の救い。その配分が私には心地よかった。

この手の素人探偵ものって、一般的には「加害者 VS 探偵&読者」の図が成り立つと思うんだけど、解決編(またの名を殺人未遂編)でその図がひっくり返されるのが爽快であり、胸糞悪くもあった。なんでこの二つの感情が矛盾せずに同時に存在するんだ。
探偵の協力者が殺人を実行しようとするシーンは、さすがに人生で初めて読んだ。ミステリー好きとしては、背徳感と敗北感を感じたよ。

そしてね、何を隠そう、八重樫の言葉より垣内や檀の言葉に共感を覚えてしまった読者である私が一番救いようのない人間なのである。終章で八重樫が展開した持論は500%正しいと思う。
私も高校時代にクラス合同の定期的なレクリエーション企画なんてものがあったら、絶対煩わしく感じたと思う。
だって、授業と部活以外の時間は私の自由時間だもん。クラスメートなんかに縛られたくない。
私が辛うじて真っ当な人間でいられるのは、犯人のように人を殺める度胸はなく、それどころか全校集会でスマホを取り出す程度の度量もないからである。目立ちたくない。ただひたすら目立ちたくない。

小早川澄花の、一見異様に見える遺書の文面が、故人の本心であったことには何気に驚いた。
猟奇殺人者からの挑発文なんかではなく、あれ以外に、端的に表す言葉がなかったのだ。

あと、主人公が「まんべんなくクラス全員を殺したいほど嫌っている」のはある意味で才能だと思う。
全員嫌いだとしても、こいつは「大学受験で第一志望に合格できなければいい」と願う程度の嫌悪感で、あいつは「明日から不登校になることを強く望む」くらいの嫌悪感で……とか、普通嫌いにもレベルの差は自然とできるはずだが、まんべんなく同程度に嫌えるのは本当にすごい。他者に優劣をつけていないってことだから。

それから実を言うと、八重樫が檀を殺そうとするシーンより、終章で垣内の心が叩き潰されたことの方が辛かった。
奪われた命は戻らないが、潰された心だって完全に元通りになる日は来ない。バッテリーの状態が新品時の60%程度に劣化したスマートフォンみたいな状態になる。