私は馬鹿なので、叙述トリックやどんでん返しを使われると、それまでどんなに退屈だった作品でも面白い作品として記憶に刻まれてしまう。作家にとってこんなに扱いやすい読者はいないだろうと思う。
表紙から強く匂ってくる通り、第一部はホラーの色が濃厚。耐性がないと越えられないかも。これが漫画や映画だったらたぶん途中でリタイアしていた。
第二部は、ラスト15ページほどが怒涛の展開。特に一番肝要な事実のどんでん返しがニクい。これがなかったらありふれた殺人小説のひとつとして脳内で処理され、一週間もすれば忘却の彼方だったと思う。冒頭の形とは違うとはいえ、殺人事件の被害者遺族と加害者遺族が協力関係を結ぶとは、何の因果だろうか。
真実は公表されるべきだと考える人もいるだろうけど、私はこの二つの事件の真実は、英一、浩樹、そして泉夫婦の胸中にあればそれでいいと思う。遺族二人が世論による貴一郎の断罪を望むなら別だけど、そういうわけでもないみたいだし。今更公表したところで、マスコミと世間に消費されるだけだ。