読書記録

読んだ本の感想まとめ。

殺意の対談

殺意の対談 (角川文庫)

殺意の対談 (角川文庫)

  • 作者:藤崎 翔
  • 発売日: 2017/04/25
  • メディア: 文庫
各々の言動と思惑が清々しいほど矛盾していて、対談記事不信になりそう。頭3話くらいのうちは、まったく関連性のない短編の集合体という認識だったのが、読み進めるにつれ登場人物同士が別の話であちこちリンクしてきて、ひとつの結末に収束していく。

最終話は記事の内容はデタラメ、ライターのモノローグも明後日の方向を向いている。どんなに作り物めいた話でも、真実というラベリングをして大衆に流布すれば、それが世間にとっての真実になる。そしてただの暇潰しとして消費されていく。

「月刊エンタメブーム」9月号

二人の回想に登場するこの人とこの人は同一人物だ、と脳内で繋がった瞬間が快感。

残虐度は女優、巧妙さは女流作家、サイコパス度はカメラマンに軍配が上がる。前二人は、確かにえげつない殺し方をしているが、殺意の根っこは復讐心なのでまだ理解の範疇。共に逆鱗に触れたら地獄の果てまで追いかけられるだろうが、無関係の人は巻き込まないような気がするので、まだ良心を残している。

一番ヤバイのはカメラマンだと思う。実行済の犯罪という観点では一見まともに見えるが、犯罪の動機が私怨ではなく己の欲望っていうのは、こいつのアンテナに引っかかりさえすれば誰彼構わず己の欲望を満たす道具にしそうで、底が知れない。

という個人的な解釈を脇に置いておくとしても、性犯罪によって異性を蹂躙しようとする人間は最低だ。私怨による殺人よりも私は許せない。こういう男は一秒でも早く刑務所にぶち込んで一生出してはいけないが、いかんせんこいつはまだ犯罪を犯していないのである(犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪はあるけど)。

「月刊ヒットメーカー」10月号

水沢と上田のその後が語られている。結局お互い潰し合って沈没してた。個人的には能力値が上の上田にはなんとか危機を回避してほしかった。

志織が誠と陸夫で二股かけていることは、早い段階で察しがつく。が、マネージャー(50代のおっさん)と専属カメラマンとの計四股はさすがに青天の霹靂。キャラクターの使い分けと、欲しいものを自己負担ゼロで得る、パズルの如き能力が巧みすぎる。一妻多夫制の国に生まれれば、まっとうに幸せになれただろう。

縦書きにして左から読む「横読み」は、上から二行目と六行目。私は別に人生自主終了する人間は負け犬なんて思ってないし、自分の人生の引き際をそこに決めたならそれでいいと思うから、四股についてはともかくこういう終わらせ方を糾弾するつもりはない。彼女の思惑通り、SMLは伝説になるだろう。

「テレビマニア」9月10〜23日号

私は基本的にヒロイン史上主義なので、女ったらしのクズ俳優と初々しい新人女優ってきたらもちろん女優さんの肩を持つんだけど、彼女が女ったらしより一枚も二枚も上手で、いい意味でも悪い意味でも強いと思った。しかも綺麗な顔が恐怖や絶望で崩れるのが好きっていう真性のS。

親友が前話の志織だって気付いた時は肌が粟立った。母殺しはさすがに二の句が継げない。ふと平成の切り裂きジャック・浅倉禄郎を思い出した。彼も母殺しだったね。似たタイプなのかもしれない。彼女が処女であると信じている大竹が滑稽。土門さんは不憫。

水沢の彼女と同一人物と判明した時はいっそ笑った。彼は上田を潰すために色々と画策したけど、上田の方が悪知恵が働いたし人を殺してはいないので、今までの登場人物の中では良心が残っている方だ。

「週刊スクープジャーナル」11月23日号掲載予定原稿

インタビュアーが三流以下なので、緊張感も面白さもゼロ。ただここを飛ばすと次の話に繋がらなくなる。ものすごく好意的に解釈をすれば、この作品の唯一の良心なのかもしれない。

4月18日「メディアミックス・スペシャル対談」

本物の谷川舞子に整形してすり替わった江本莉奈がインタビュアー。と思ったら、実際には江本莉奈に扮した井出夏希が扮する谷川舞子だと? 漫画家のふりをした探偵も井出夏希側に寝返ったフリ、女流作家も殺意に気付かず怯えるフリ。演技が二重三重になっていてもう訳がわからない。

作中で最も卑劣な殺人者は江本莉奈だと思っていたのに、山中に仕掛けられた発火装置であっさり死んだのか。なんだか拍子抜けというか、落胆したというか。一生やすやすと逃げおおせるタイプの犯罪者かと思っていたよ。