読書記録

読んだ本の感想まとめ。

言葉屋3 名前泥棒と論理魔法

第一章 名前泥棒の季節

月の光はやさしいから、月のことはだれでもずっと見ていられるけど、太陽の光はまぶしすぎて、太陽のことは、だれもまっすぐ見られないんだよ。太陽があったかくきらきらすればするほど、だれも太陽のことを見つめてくれなくなるんだよ。だから、アタシ、太陽って言われても、全然うれしくない。うれしくなかった!

挿絵が秀逸すぎて、尚更涙を誘う。詠子ちゃんとしぃちゃんの対比が。太陽と月に例えられる関係性って、どうしても太陽=陽、月=陰のイメージがついて回るから、単体では輝けない月の方に焦点をあてがち。少なくとも私はそうだった。太陽にも影があるって考えにこれっぽっちも至らなかった。太陽に例えられるって一般的には褒め言葉で、詠子ちゃんもそのつもりで言ったんだってよく分かる。

今丁度『つまずきやすい日本語』で言葉のニュアンスによるすれ違いについて読んでるから余計に身につまされる。言葉に対する理解が、自分と相手とでまったく同じだと思って会話してはいけない。自分の脳内と相手の脳内に、まったく同じ辞書があると思ってはいけない。いつも周りを明るくしてくれる人の痛みって、表に出しにくい分、ぼっちの人よりも根が深いかもしれない。

でも、詠子ちゃんには悪いけど、ひとつだけいいことがある。二人の関係がこのまま自然消滅するよりも、しぃちゃんの中で2年以上燻っていた気持ちが露出したことはよかった。大事な人にぶつける勇気が持ててよかった。言えないでしぃちゃんの人生のシミになるよりはずっとよかった。

読おじさんの読って、翻訳家っていう仕事から連想したあだ名じゃなくて、本名だったのか! 毒と響きが同じっていうのもからかわれやすいポイントだけど、名前に濁点が入ると濁った、というか、誠実ではないイメージが張り付いてしまうのは私だけ?

『ごめん』が詠子の結論で、アタシとの関係の、おわりの言葉になるんじゃないかと思って、こわかった。

傷ついたけど、それを謝ってほしいわけじゃない。大人からすると天の邪鬼にも見えてしまうけど、思春期の心情の煩雑さがよく現れている台詞。

アタシのこと思い出して、アタシがホントに元気かどうか、確かめにきてほしい。

かまってちゃん、とは違うんだよね。見栄を張りたいお年頃だけど、唯一、弱い自分も知っておいてほしい相手なんだよね。

無記名でも差出人に察しがつくアイテムを使って「負けんな」って、ずるくない? イケメンすぎない? これはほの字フラグですか?

しぃちゃんをかばうことで、しぃちゃんの立場をさらに悪くしてしまう可能性があることを、須崎くんは知っていたのだ。

やっと言わない勇気の具体例が出てきて、得心した。言わないことが、本当にその人のためを思った結果なのが尊い。小学生編ではあまり注視していなかったけど、須崎くんはいい男になった。精神年齢が10歳くらいスキップした感ある。

しぃちゃんのフルネームが3巻にして初めて登場したことに、やっと気付いた。主人公に太陽に例えられているのに、実名は満月なのもまた、違った角度での対比だな。

桐谷くんが名字呼びから名前呼びに変わったことに、思わずガッツポーズ。桐谷くんも同じ反応をしているといい。

第二章 転校生は言葉ハンター

主人公がハーフという衝撃の事実。

俯瞰的に見れば、英才教育を受ける言葉屋のエリートVS経験値の足りない小娘。自分は劣等生側の人間なので、自分より明らかに能力が劣っている人間を見て憤怒するエリートの気持ちは分からない。エリートは劣等生なんて眼中にないのでは?

「技術と使命を継承する義務」って言うけど、本人が心の底から言葉屋に大志を抱いているならいいと思うのだが、仮に足枷となっていることに見て見ぬ振りをしているなら気の毒だ。彼の荒々しい言葉は憤怒というより、老舗ブランドの跡継ぎに対する劣等感じゃないだろうか。

作者の歴史設定がしっかりしていて感服。この物語がフィクションじゃない錯覚に陥りそうになる。

喜多方くんはら抜き言葉や全然+肯定表現が嫌いらしい。公的文書ならともかく、日常会話は生き物だから変化して当然で、ちょっと価値観が狭すぎると思った。意味や意図がまるで違って伝わってしまうなら誤用と言っても差し支えないと思うけど、この場合意味は変わらないんだからいいじゃない……。相手との関係を円満に保つより、言葉へのプライドの方が勝つのか。私が彼のクラスメートでも、鬱陶しくなって近寄らなくなると思う。

詠子ちゃんの包容力の大きさに、ただただ頭が下がる。私は転校生のことを、「言葉への執着が過ぎる少年」としか見られなかった。言珠の影響を受けていた――自分ではコントロールできない言珠中毒に冒されていたのだとすれば、納得がいく。外面だけ見れば加害者にしか見えなかった少年は、実は被害者だったのか。言珠が間違った方向に使われるって、こういうことか。

培ってきた知識と技術が、将来誰かを遠ざけるのではなく、救う手助けになればいいと思う。

なあ、おまえさ、俺と結婚しろよ。

いや待っておかしい。いくらなんでも唐突過ぎる。一足飛びにも程がある。本人としては恋愛感情ではまったくなくて、言葉屋としての利害関係を考えた上で飛び出た言葉なんだろうけど。桐谷くんと須崎くんと喜多方くん? 逆ハーかよ。私的には詠子ちゃんにはすでに桐谷くんという旦那がいるんだが(気が早すぎる)。

第三章 マジカルロジカルクラブ

桐谷くんに比べて、距離が縮まるのが早すぎる。詠子ちゃん本人の気持ちが置いてけぼり。実父曰く引っ込み思案なのに、なんで詠子ちゃんにはぐいぐい行くの。しかも、周りに婚約者だとか吹聴するとか両親に挨拶して外堀を埋めるとかまでしてくれば、読者としてもきっぱり嫌うことができるのに、実際強制したのは名前呼びだけだってんだから歯軋りが止まらない。完全に自分の中で桐谷くん-詠子ちゃん-喜多方くんの三角関係が出来上がってる。なんで桐谷くんと学校別なの! ぽっと出の転校生に詠子ちゃんの心を懐柔されてたまるか!(何様)

先輩の種明かしを聴いて、大衆向けの星座占いは信用できないけど、論理で構築するタロットは少し信用するのも悪くないかなと思った。もちろん占いの結果がそのまま信念や行動指針になるのはどうかと思うけど、行動の後押しにする程度なら健全なのでは。

伊織くん(喜多方くんと差をつけるためにそう呼ぶことにした)と詠子ちゃんの会話を読んでいると、心が洗われる〜。押し付けがましいところが1ミリもなくて安心する。マジックとタロットにも繋がりが感じられてふふってなった。伊織くん、喜多方くんなんかに負けるな〜。

大人しい子が強引な異性に迫られていつの間にか人生引っ張られてるっていうのも嫌いではない。でも詠子ちゃんは、言葉の影響を立ち止まって考えてから言ったり言わなかったり出来る子だから、他の人のペースに巻き込まれるんじゃなく、
同じ速度で隣を歩いてくれる人と幸せになってほしい(クソデカ声)。

第四章 波とかしの祈り

おじいちゃんとおばあちゃんの信頼関係が美しい。以心伝心、比翼連理とはこういうことか。オルゴールって手作りできるものなんだ。オルゴール屋も名乗れるのでは。

コミュニケーションは、言葉だけではない。

昨今はコロナ自粛で、エンターテイメントの中に籍を置く音楽を楽しむ機会はかなり狭められてしまったけれど、音楽は時にコミュニケーションの手段にもなり得る。そうだ、私もすっかり忘れていた。

音楽に限らず、10代の頃って、言葉に先立つものを見つける天才だと思う。齢を取るにつれてどうしてか、その力がどんどん萎んでいってしまうのだけど。

第五章 宇宙人からの絵葉書

再びの衝撃の事実。今まで父親の影が一切なかったのって、単身海外転勤ってわけではなくて、法的に両親の繋がりが切れていたからだったのか。後出しジャンケン感がすごい。

父娘の間の溝、土日しか会話する機会がないとか、何を考えているか分からないとか、そういう次元じゃなかった。物理的な第一言語の壁だった。詠子ちゃんは自己否定してるけど、8歳じゃあ相手の事情より自分の都合を優先させるのは仕方ないと思う。