- 作者:知念 実希人
- 発売日: 2016/10/06
- メディア: 文庫
ラストの畳み掛けがすごい。この真相を余すところなく完璧に読めていた人は自画自賛していい。前巻の仮面病棟ですら自分には「この人が真犯人だったら面白いのに」程度しか気付けなかったのに、この話のラストに事前に辿り着けるはずもない。語り手が「真犯人X」だったら、印象は180度違うものになっていただろう。
中盤で拉致被害者の共通点が分かった時は「この人ら全員、ふっ飛ばされても文句言えないのでは」と思ったけど、すべてが終わってしまえば、「誰の恨みも買わずに一生を終えられる聖人なんていない」という諦念が湧いた。
すごく性悪なことを言うと、主人公は助かって幸福だったのだろうか? 拳銃を向けられた瞬間、自分の都合のために愛した男の社会的立場を殺した、その代償を、主人公は自らの命をもって償おうと誓ったように見えた。これから誰にも言えない罪を、裁かれることすら赦されぬままずっと抱えて生きていくのか。償いたいのに償う機会を与えられない罪は、拷問と変わらない。