読書記録

読んだ本の感想まとめ。

我が家の問題

我が家の問題 (集英社文庫)

我が家の問題 (集英社文庫)

甘い生活

仕事帰りに硬派な喫茶店で珈琲を啜りつつ、文庫本を読む。なんて贅沢な一人時間だろう。新婚夫婦にこそ、誰の視線も気にしない一人の時間が必要。

子供の教育方針は、私はどちらかというと淳一派。公立でも私立でも集団があれば爪弾きされる人間は絶対出てくる。「そういうものから子供を隔離することはできない」その通り。私立に入ったら必ず同じ階層だけでつるんで得意がる人間になる、わけではないけど、同じ入試を突破して同じ学費を払って同じ制服に身を包む以上、価値観が似通った集団になる。私立は中学からで充分だと思う。

私もこの奥さんの姿勢は正直しんどい。夫と価値観の相違が発生した時、歩み寄る気配を見せずに我を押し通そうとする。折衷案ではなく、あくまで自分の価値観に相手を取り込みたいように見える。自分の意見が受け入れられることが当たり前の家庭や教育環境の中で育ったのだろう。

ハズバンド

私も仕事できない側の人間だから、胃をキリキリさせながら読んだ。自分はマルチタスクが苦手だけど、秀一は段取り下手ときたか……割と致命的なやつ。マルチタスクに不得手でも料理嫌いになるけど、段取り下手だと、炊飯器でごはんを炊いてレトルトカレーをかけるだけでもストレスになりそう。

マルチタスク下手も段取り下手も、日本の画一的な教育環境ではほとんど露見しないの本当に問題だと思う。学生時代それなりに成績優秀だと、家族はもちろん、本人も「自分はできる方」と思い込んで社会に出ていくからギャップで死ぬもん。

主人公が手に届く範囲の自分の時間を抱き締めているのを見て、義両親への苛立ちより安心の方が前に出た。料理教室に通わずとも、レシピ本やレシピアプリでメキメキ上達するタイプだとお見受けしたので、出産前にどんどんレパートリーを増やしてほしい。

絵里のエイプリル

自分の実家も価値観の相違が過ぎて小学生時代から冷戦状態だったから、主人公の気持ちが少し分かる気がする。彼女は当時の自分よりずっとお姉さんだから、俯瞰して冷静な視点で見るのかと思ったら案外そうでもない。既に両親の離婚を経験した子はみんな達観していて、時が経ってしまえば、これもまた人生経験の一つでしかなくなるのだと妙に心が冷えた。

生徒に子供扱いではなく対等の人間として接している橋本先生には好感が持てる。思春期の頃は舐められることが屈辱になるから。

子供の人生が親のものじゃないのと同じで、親の人生も子供のものじゃない。

これに高校生で気付けるのは凄い。私は社会に出てからだった。

夫とUFO

美奈子がイケメンすぎて泣いた。「健やかなる時も、病める時も」とはこういうことだと思った。精神疾患はともすれば支える側もメンタルを引っ張られやすい病気だから、例え彼女が離縁を選んで親権を主張したとしても私は責められないし、支えないことを選択した人が冷淡だとは決して思わないけど、会社を辞めろと言い切った姿は本当に格好いい。

「死ぬくらいなら会社辞めれば」という本が一時期話題になったけども、本人は自死の選択すらも塗り潰して、悲鳴を上げる体を引き摺り回している場合も少なくないので、周りが選択肢に誘導できるならそうした方がいい。

個人的に「家日和」の「ここが青山」の夫婦とどこかで出会ってほしい。きっと面白い化学反応があると思う。

里帰り

夏季休暇なんて名ばかりで、実質全然休めてないじゃん。むしろ仕事以上に疲労を溜め込んでるじゃん。なんのための休みだ。帰省ってシステム、息苦しいことこの上ない。

妻とマラソン

「家日和」の「妻と玄米御飯」と同一家庭。やっぱり頑張れば手が届くかも知れない目標を据えるのは、人を輝かせる。齢を取れば取るほど価値観が硬くなって、新しい刺激を欲しなくなるから、里美の姿勢は見習わなくては。目標のない日々をただ流されるまま生きることの虚無感といったらないのだ。

康夫の走りを冷笑する愛犬に笑った。

内助の功って慣用句があるけど、男女逆バージョンはないのだろうか。「妻と玄米御飯」の頃と比較して、双子の成長はもちろんだけど、康夫の妻に対する愛情が深くなったことが伝わってきて感慨深いものがある。