- 作者:今村 昌弘
- 発売日: 2019/09/11
- メディア: 文庫
真の完全犯罪は警察をギブアップさせることじゃない、犯罪として露見すらしないものだよ。
目から鱗が落ちた。トリックや証拠隠蔽が先行することが多いコナンや金田一にはない価値観で新鮮。これを信条とする推理作品にはお目にかかったことがない。まあ露見すらしないと物語の起承転結が生まれないから当然だが。
ゾンビマスターの熱弁には感服。「人々はゾンビに自分のエゴや心象を投影する」という解釈は私好みだ。
語り手自身が窃盗行為を働き、その行為が犯人特定においての最重要事項であることはあえて語られなかった。ノックスの十戒に抵触していそうでしていない際どい所を攻めている。
主人公の罪過が重たく沈殿する。軽薄な正義感が、二人の人間を殺したとも解釈できる。もうほとんど共犯だ。あまりにも痛く、救いがない。そしてこの罪過こそが、葉村譲という名探偵でもワトスンでもない何者かの楔になるのだろうと考える私にこそ最も救いがない。真犯人の動機については、正義こそあらゆる罪を正当化する見本。
仇を二度殺すため――ホワイダニットの答えに理解も納得もできてしまう自分が怖い。でも堕胎って殺人と同義だと思う。殺されて当然の男だったとまでは私の一欠片の理性が思わせてくれないけど、生きていていい男だったとも思えないのだ。
誰かの一番醜い部分を指差して、人でなしだ、許せないって叫んでるんじゃないのか。
だから俺はこれ以上出目や七宮のことを知りたくない。あいつらのことを救いようのない人間のクズだって思っていたい。
悲壮感が惨い。明智さん死亡に対する喪失感が一番辛い。数日尾を引きそう。
これ、原作のスケールのまま映像化されたの? 本当に? 俄然劇場に足を運びたくなった。