読書記録

読んだ本の感想まとめ。

山手線探偵2: まわる各駅停車と消えた初恋の謎

今作は真相どころか、事件発生時の人間関係や取り巻く環境もどちゃくそ重い。1巻を凌ぐヘビーさ。
表紙は「ライト文芸です!」と言わんばかりの軽いタッチだけど、ライトミステリーを期待して読むと裏切られる。それでもまだ小学生の女の子が語り手だからまだヘビーさが緩和されている。探偵視点で話が進められたら、金田一の長編並に読むのに精神力を必要とする物語になっていただろう。

女の子をバラバラに切り裂いてその肉を捧げるという、かつての最悪of最悪の人身御供を聞いて「理不尽に家族や財産を失えば正気を保つのは難しい」という解釈に辿り着いた主人公(小学生)は人生何周目? 私は信じられないとか狂ってるとかで思考が止まってしまう。
だっていわば村人全員グルの人殺しでしょ。窮乏による窃盗とかならまだしも、倫理を犯した人間の事情を推察する心の余裕なんてない。
捧げたあと、その肉はどうしたんだろうか。放置していたら蠅が集るだろうし、食べた可能性もある。つまり食人。なんとおぞましい。

村人達が殺人事件をきっかけにトメ子さんへの態度が180度変わったこと、その理由が「巫女の死により、信仰の物理的対象を失ったから」では理解はできても納得はできていなかったんだけど、ラストの解決編で「巫女の死により、生贄にするはずだった少女の存在意義が消滅したから」と明かされて前者の5億倍得心した。
解決編が70年後だったのは不幸中の幸い。まだ敗戦の香りが色濃かった時代にこの真相を聞かされていたら、何らかの精神疾患を発症していたかも分からない。もちろん、人生経験を経たからといって傷つかないわけではないけど、長い年月が傷を浅くしてくれることはあるので。

こんなことを言うのは非人道的だけど、同じ殺人でも、人身御供による殺人と、生贄にされようとしている少女を守ろうとした少年なりの「正義」の殺人とでは、後者の方が人間的で減刑の余地があると思う。

3巻でようやくヒロインと霧村の出会いのきっかけとなった事件が明かされる? 楽しみだ。