世の中には矯正できない人間がいる。こいつがそうだ。こいつは世の中に存在してはいけない邪悪な化け物だって。
これは読者も痛感している。この男に性善説は適用できない。毒を盛ったのが本当に道子だとしたら、私は彼女に羨望と嫌悪を半分ずつ抱く。達也は一般社会をのうのうと生きていい人間ではないが、かといって首吊りなどで苦しまずに死ぬのも気に入らないので、「人間が味わう最も激しい苦痛のひとつ」に見舞われたのは読者にとって救いだった。
殺人未遂は当然悪だが、邪悪な化け物を断罪するのは必要悪だと考える読者もいるだろう。人が人の生きる権利を剥奪してはならない。その通りなのだが、達也にもこの倫理を適用すべきかと考えると、私は頷くことができない。もし圭輔が迷いなく頷くのだとしても。
私も思う。圭輔は犯罪者を庇護するには優しすぎる。故に、弁護士には向いていない。たぶんもっと利己的な人間でなければ精神が持たない。弁護士は、優しい人間が目指す職業ではない。