読書記録

読んだ本の感想まとめ。

代償

代償 (角川文庫)

代償 (角川文庫)

  • 作者:伊岡 瞬
  • 発売日: 2016/05/25
  • メディア: 文庫
筆致が淡々としている。長めの作品ということもあり、一気読みする気は起きないし、深い感情移入もできない。それでいいのかもしれない。十二歳の時に起きた火災や、その後三年間の冷遇の過程が一人称視点で感情豊かに書かれていたら、読み進めることができたかどうか定かでない。

世の中には矯正できない人間がいる。こいつがそうだ。こいつは世の中に存在してはいけない邪悪な化け物だって。

これは読者も痛感している。この男に性善説は適用できない。毒を盛ったのが本当に道子だとしたら、私は彼女に羨望と嫌悪を半分ずつ抱く。達也は一般社会をのうのうと生きていい人間ではないが、かといって首吊りなどで苦しまずに死ぬのも気に入らないので、「人間が味わう最も激しい苦痛のひとつ」に見舞われたのは読者にとって救いだった。

殺人未遂は当然悪だが、邪悪な化け物を断罪するのは必要悪だと考える読者もいるだろう。人が人の生きる権利を剥奪してはならない。その通りなのだが、達也にもこの倫理を適用すべきかと考えると、私は頷くことができない。もし圭輔が迷いなく頷くのだとしても。

私も思う。圭輔は犯罪者を庇護するには優しすぎる。故に、弁護士には向いていない。たぶんもっと利己的な人間でなければ精神が持たない。弁護士は、優しい人間が目指す職業ではない。