読書記録

読んだ本の感想まとめ。

無職本

毒にも薬にもならない本。ただ一口に「無職」と言っても、辞書的な語意だけではなく、定義は十人十色なのだと気付かされた本ではあった。装丁が潔くて嫌いじゃない。

山手線探偵3: まわる各駅停車と消えた妖精の謎

誘拐事件の真相が判明したあたりまではスムーズに読めたんだけど、その先あたりから中だるみを感じて、読了に4週間近くかかってしまった。

化学薬品などではなく普通に店舗で入手できるもので生成できる爆弾と聞いて正直、全部探偵達の勘違いで、ラストは爆発はしないんだろうと思ってたんだけど、普通に爆発して驚いた。もしそんな爆弾と人工知能が実在したら、世界はくまなく戦場と化すだろう。これがフィクションでよかった。

「妖精を悪魔に変えるのはほかならぬ私たち」この気付きを得たシホちゃんは本当に小学生ですか。人生何回目ですか。
人間は愚かだから、原子爆弾といい人工知能といい、革新的な技術を手に入れるとろくな使い方をしない。他にも酒、車、拳銃……これらが犯罪や死に繋がる例は掃いて捨てるほどある。発明者がどれほど賢人でも、使う民衆は愚者なんだよなあ。全員がそうとは言わないけども。

霧村さん達とシホちゃんの別れが大変潔い。個人的にはこのまま彼女が中学生、高校生と成長していく姿もちょっと見たかったけど、スッキリした終わり方でこれはこれでよし。立つ鳥跡を濁さず。

「朝」日記の奇跡

「朝」日記の奇跡 (PHP文庫)

「朝」日記の奇跡 (PHP文庫)

自分にとっては「前日の感情を一旦リセットしてから書くことで、出来事と感情のバランスが取れた内容になる(中立性)」が一番効果がありそうなので、早速明日から朝日記を習慣化しようと思った。
特にいいことが何もなくて反省点ばかりあった日(と思い込んでいる当日夜の自分)を睡眠でリセットして朝に改めて向き合うのは、きっとうつ病にもいい作用があると思う。睡眠は大体の抑うつをぶっ飛ばしてくれる最終奥義なので。

ただし、日記の書き方や目的、使う日記帳、文章のボリューム等はすでに自分に最適なスタイルが確立されているので、自分に必要な情報(朝日記のメリット)は序文、もっと言うならカバー折り返しに集約されていた。そのことに気付けていたらこの読書は十秒で済んだのに(著者が泣くぞ)笑

Excel2002のスクリーンショットに時代性を感じた。2013以降のメニューバーしか知らないので。著者が2002で保存していたデジタル日記は、2019もしくはOffice365で正常に開けるのだろうかと勝手に不安になった。10年以上の単位で利用する記録は、デジタルより紙の方が保存性いいよ……。

男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる

男でもなければ将来出産する予定もないので、ただの野次馬として読んだ。

企業側にも手厚いフォローがあるにもかかわらず取得を拒否するのは確かに立派なハラスメント。「該当社員にしかできない仕事がある」と文句を言われても、国としては「属人的なマネジメントしかできない下手くそな経営に対してこっちに八つ当たりすんな。鏡見てから言え」って感じだよな。

転売という闇についてはバチクソ叩かれるメルカリ、出産育児の福利厚生が充実していて、男性社員の9割が育休取得とは知らなかった。あらゆる面から観察しないと、企業の価値って分からないものだな。

義務化って「男性社員が育休を取得するのは義務」ではなく、あくまでも「企業が育休取得対象者に対して、取得する権利があることを説明する義務」なのか。それなら大賛成だ。これは勘違いしている人が多そう。

ただ休むだけで実際には家事育児に参加しないダメンズを生み出さないために、積水ハウスみたく「家族ミーティングシート」を配布して、妻の署名捺印の上提出させるのはすごくいい制度。家庭は夫婦で築き上げていくものだから。

「ゲームのルールが変わった」は簡潔で明快な表現。期間当たり生産性から時間当たり生産性へ。これからどんどん、効率的に働けない人材はいらない人材になっていく。

残念なことに多くの社員がすでに家族から早く帰って来られても迷惑な存在になっている

か、可哀想なフラリーマン……。夕飯の時間帯に家に帰っても、子供や妻から「なんでいるの?」って顔されて、家のどこにも居場所がないからターミナル駅の飲み屋でフラフラするんだな……あまりにも哀れで見ていられないよ……。夫/父親じゃなくて単なるATM化してる。

組織側に本質的なニーズが無い時に法律で義務化しても「(中略)全男性に産後一日だけ育休を取得させて100%にしろ」というような抜け穴を探す企業が増えるだけです

ぐうの音も出ない。その通り過ぎる。

1440分の使い方

16番目の項目に1~15の内容が簡潔にまとめられているので、多忙な人やせっかちな人、理屈はいらないからテクニックだけ知りたい人は201~207ページだけ読めばいいような気がする。私は理屈まで知りたい人間なので隅々まで読んだが。

タスクをTo Doリストじゃなくスケジュール表で管理する手法に、タイムブロッキングという名前がついていることを知った。自分はTo Doリストでの無理すぎて諦めた結果としてGoogleカレンダー管理に辿り着いたけど、何しろTo Doリストの項目の41%は永遠に終わらないという研究結果があるらしいので、そもそもTo Doリストによるタスク管理は人類に向いていないと思う。大きな組織を率いている成功者が使っていないんだから、我々凡人に使いこなせるわけがないと思う。「スケジュールに入れないことは何一つ片付かない」のは本当。

「毎朝の60分に投資する」はすぐにでも新しく取り入れてみたい。具体的には、ラジオ体操をする時間と前日の分の褒め日記をつける時間をルーティーンにしたい。

付録の名言は、81の「時は偉大な教師だ。しかし残念ながら、生徒を全員殺してしまう」が一番印象的だった。

捜し物屋まやま

捜し物屋まやま (集英社文庫)

捜し物屋まやま (集英社文庫)

作者がBL界隈の人っぽいんだけど、途中からそういう展開にならなかったので胸を撫で下ろした。

第一章 三井走の脱出

主人公が商品説明会で不可抗力故の失敗→部長に目をつけられる→心身を消耗し退職→7年間引きこもり→数年後母が病死→バイトをしようと思った矢先に火事、家全焼。金や身分証明書等ほぼすべての持ち物を失う

ここまで僅か30ページ。不幸が連鎖しすぎてて、しんどすぎて早くも読むのをやめようかと思った。引きこもりだけど親の保険金で衣食住には困っていない、それって周囲から見れば勝ち組に映る場合もあるかもしれないけど、やっぱり社会的な繋がりがないっていうのは人の心を蝕んでいく。
でも読み進むにつれ、好きなアーティストのライブに行ったり友達?とキャンプに行ったり、徐々に人権を取り戻しつつあるようで本当に安心した。
放火犯ザマア。

第二章 徳広祐介の悲哀

二章のラストまできてやっと短編連作形式なんだと気付いた。
彼氏が過去の殺人を告白する動揺を歌うシーンが怖すぎて鳥肌。悪役が得意な俳優さんをキャスティングしてドラマ化したら1億倍怖そう。

第三章 間山和樹の憂鬱

凶悪な性犯罪者の人生が社会的に終了してスカッとした。和樹は割り切れない何かを感じているみたいだけど、正義の形って一つじゃないから。少なくとも元担当とその後輩、それに今までのたくさんのセクハラ被害者は、このまま加害者がのうのうと作家業を続けていくよりは救われたと思う。動画の裏事情はまあ、ほとんど騙し討ちだけど、限りなく悪に近い正義もあると私は思う。
現実の性犯罪者は裁判で無罪になったりする意味不明な世の中だから、せめて創作の中の性犯罪者くらい社会的に殺したいよね。あ、恐喝と殺人未遂犯でもあるんだっけ。

これまでの犯人の不自然な「自白」の真実が明かされる章でもある。白雄は綺麗な顔して本当に性格が悪いし口も悪い。彼の心情が次の章で明かされるんだろう。
河原さんと吉田さんが同一人物かどうかは結局宙ぶらりんのままだ。そこだけ不満。

第四章 間山白雄の災難

わ、わからん。間山白雄という男の何もかもがわからん。関係が壊れるって分かってるのに嫌がらせで幼馴染兼義兄の彼女盗るな。すぐ許してもらえると何故思った?
まあ、こんな過去があるのに今は円満な関係どころか一緒に住んでる和樹もちょっと不思議だけど。一度思いっきり殴り合ってるから気が済んだのか?

これまでの章とは違って、九割回想で現実の時間はほとんど進まない。まあ白雄がはしかでぶっ倒れてたから仕方ないんだけど、相談者が探している相手が白雄が運び込まれた病院にいたっていうのはちょっとご都合主義が過ぎないか?

日本村100人の仲間たち The HOPE

日本村100人の仲間たち The HOPE

日本村100人の仲間たち The HOPE

  • 作者:吉田 浩
  • 発売日: 2020/08/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
ノンフィクション絵本と呼称すればよいだろうか。たぶん小学校高学年あたりから読める。しかし絵本と侮ってはいけない、コロナ禍に纏わる社会問題が端的に語られていて、世界情勢を数十分で把握するにはぴったり。

中学生くらいから巻末の解説が興味深く読めると思う。天王寺動物園のキリンの赤ちゃんの補足説明だけは知りたくなかった。

言葉のセンスがかなり好き。「武漢でコウモリが羽ばたくと、マンハッタンの人通りが消えた」「粗大ゴミといっしょに、パパを捨てる「コロナ離婚」が流行っています。」とか辛口でいい。

前の巻は2002年に発売されているようだ。あれからリーマンショックとか東日本大震災とか台風被害とか、日本に打撃を与える出来事はたくさんたくさんあった。満を持してコロナの年に2巻目発行ということは、2020年は世界史における転換点になるという著者・関係者の思想のあらわれなのかもしれない。