読書記録

読んだ本の感想まとめ。

マリー・アントワネットの日記 Bleu

服飾費で散財したり、あろうことか賭博に夢中になったり、首飾り事件で国民中から非難されたりと、色々思うところはあったものの、ヴァレンヌ事件からの転落ぶりが強烈すぎて前半のあれこれが全部飛んだ。呼吸困難になる。
ラスト、ギロチンにかけられる直前の彼女が悲嘆に暮れていないのが救いか。
この本のリアル著者の吉川トリコさんが、後書きを一行も書いていないのが、かえって余韻を確かなものにしている。

フランス革命以降の展開については、マリーの主観も多分に含まれていそうだから、フランス革命に関する解説書もあわせて読みたいところ(高校時代は世界史専攻じゃなかったもので)。

また君を泣かせてしまった。はじめて会ったときからそうだ。ほんとはいつだって君を笑わせたかった。しかしどうやら私にはその才能がないようだ。

私も王になってよかったと思える唯一のことといえば、君を妻にできたことくらいだよ。

ルイ16世の夫としてのこの言葉、マリーアントワネットとの関係性を象徴していてとても好き。
この二人は時代と立場が違えば添い遂げられたと信じてるけど、時代と立場が違ったら夫婦になり得なかったと思うとしんどい。
タンプル塔に幽閉されてからの二人の方が、現代の夫婦に近い――「仲睦まじく」見えるのは私だけではないはず。

いつの時代も国王を追い落とし、あまつさえ王座を狙おうとする人物が後を絶たないというのに、ここまで無欲で善良な男が神に選ばれ王冠を授けられたことは皮肉としか言いようがありません。

私の望みはただ一つ、フランスのしあわせだ。この命を捧げることでそれが叶うというのなら安いものだ。

これはルイ16世というフランス国王を象徴する一節。
彼は国王としては失格だったのだろうか。ルイ15世と比べると、決してそうは思えないが。
結局、フランス革命と在位がぶつかったばかりに「裏切り者」の烙印を押されてしまっただけなのでは。
彼は800年に及ぶ王政の借金を、一人で清算させられたのでは……。

ルイ・シャルル、もし君がこの先、不幸にも国王になるようなことがあれば、国のためにすべてを捧げなければならないことを覚えておきなさい。間違っても父の敵を討とうなどと考えてはいけないよ。憎しみは憎しみを生むだけだ。連鎖はここで断ち切らねばならない。私はすべてを許している。君もそうするんだ、いいね?

ルイ・カペーは、ルイ・シャルルがこのあと虐待の末に病死することを知らない……と痛感させられる言葉。
いや、そんな姿は知らなくていい。涙で前が見えない。

恋をしてあたしは自分の弱さを知りました。妻になって自分の愚かさを知りました。母になって幼さを、友を得て狡さを、敵を作って尊大さを、王妃になって凡庸さを知りました。

これはマリーアントワネットの言葉の中で一番好きな一節。
現代の女性主人公のフィクションにも、多大な影響を与えていると思う。
立場が自身の愚かさを自覚させることは往々にしてある。
立場を剥がすことで楽になれるならいいけど、彼女はそれができる地位にいなかった。

バカでけっこう。私はあなたを愛するためだけに生きているのです。

そうだよ、知りませんでしたか? 狂ってるんだ、私はもうずっと。

このあたりは、フェルセンとの関係性を象徴する言葉。
背筋がぞくぞくするよね。現代の女性主人公のフィクションにも(ry
推しの旦那に言わせてみたい。
この二人もなあ、出会い方さえ違えば一緒になれた。マリーが嫁いできた年齢が幼すぎたばかりに。
私現代の不倫コンテンツは生理的に無理だけど、マリーアントワネットに限っては「いっそ分裂すれば……」という最低の思考が頭を過ぎってしまう。
彼女を愛する男は二人いるのに、マリーは一人しかいない。
というか、陛下がフェルセンと親友同士っていうのもなかなか信じられない。

年齢を重ねるにつれ、グラデーションで言葉遣いが落ち着いていく……と思いきや、最後の年の元日にしっかりおちゃらけていた。
4人の子の母になっても、執政に参加するようになっても、人間の根っこ……アイデンティティは一生変わらないなと思った。

首飾りのデザインはダサいと私も思う。