第一話 アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』(ハヤカワNV文庫)
読書が好きなら、人の感想を横取りして自作発言をしないっていうのは最低限の矜持だし、しかも読んでもいないのに読んだことにするのは、著者への侮辱だと私も思う。
それにしても、小4の栞子さんの思慮深さと読解力と文章力に脱帽。
私はとっくに成人した身だが、作中で引用されている箇所を読む限り、今でも読解できないと思う。
読書が好きの中にも、聡明な人間と凡才がいる。私は完全に後者。
栞子さんの文章に対して、反抗や将来の行く末を案じる大人の声があったというが、それは例えば、戦闘ゲームが好きだから将来は人殺しになるかもしれないという憂慮と変わらない暴論なのでは。
第二話 福田定一『名言随筆 サラリーマン』(六月社)
正直高坂父が晶穂さんに贈った本の正体と高値がつく理由よりも、晶穂さんの告白と主役二人の関係の変化と、それから大輔が目にした絵の人物の方が強烈に印象に残った。この話、色々一気に進展しすぎ。
特にプロローグがこの話のラスト、一巻冒頭が晶穂さんの告白と繋がる構成には舌を巻いた。
絵に描かれていた栞子さんと瓜二つの女性は、まあ普通に考えれば彼女の母親ないし親類縁者。
晶穂さんの、高校当時の策略がいじらしい。彼女は栞子さんをいい人だと評したけれど、晶穂さんの人間性も性善説が軸になっていると思う。
正直、大輔が「好きだった」と念押しするのは余計だった。過去の女にそういうこというと、相手は離れ難くなっちゃうじゃん。
大輔と栞子さんがお互い名前呼びになった~! めでたい! どちらかが自ら言い出したんだじゃなくて、別の人の呼び方が写ったのがきっかけっていうのが二人らしい。
もし大輔が高校時代、初めてビブリア古書堂を通りかかったときに栞子さんと言葉を交わしていたら、彼女は当時大学生だったのかな。
聡明さが滲み出ている年上の美人女性……晶穂さん、そりゃ焦るわ。
第三話 足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦」(鶴書房)
前の話で謎のままになっていた絵の人物、正体はやっぱりお母さんだった。作中に登場しないのは事故や病気ですでに鬼籍に入っているからだと思っていたけど、まさか失踪とは。
この謎は先の巻でいつか明かされるのだろうか。どんな理由にしろ、子育てを放棄して出ていった人間に好印象は抱けないよな。
「善意の第三者」であった母がしたこと、自分も変わらないと口にした栞子さんの気持ち。簡単に、分かるとは言えない。
栞子さんが「一生結婚はしない」と宣言したことで、二話で近付いた距離がまた遠くなった……とは言わないまでも、明確に境界線が引かれたような気がする。
栞子さんが大輔に抱いているのはあくまで「どれだけ本の話をしても、きちんと聴いてくれる相手」という安心感で、大輔が抱いている感情とはベクトルが違うのだろう。