読書記録

読んだ本の感想まとめ。

新しい世界の伝記 ライフ・ストーリーズ5 アンネ・フランク

アンネは、後世で誰にも見せるつもりのなかったプライベート日記が公開され、自身の短い人生が本になって出版されるとは想像していなかっただろう。日記が綴られた時、彼女は思春期ど真ん中。ごくごく個人的な悩みや愚痴、ひょっとしたら空想物語なんかも書き留めていたかもしれない。そういう心の一番デリケートなところが時代を越え、国を越えて晒されて、天国にいる彼女は今頃平静なのだろうか。自分だったら、例えば創作物のプロットなんかが死後誰かに(たとえ親兄弟だとしても)読まれたら耐えられない。死そのものよりも恐怖だ。絶対地縛霊になってそいつを呪いに行く。そう考えると、この少女はユダヤ人迫害という時代性に殺されたという意味でも、日記を公開されたという意味でも、二重に不憫だ。特に後者を考えると、自分には彼女が今頃天国で喜んでいるとはとても思えないのである。

囚人の解放は二人がこの世を去った数週間後。だが愚かな人類は、少なくとも言葉という神器にも劇薬にもなり得るものを使う限りは永遠に、世界のどこかで戦争をするのだろう。