読書記録

読んだ本の感想まとめ。

給食のおにいさん

給食のおにいさん (幻冬舎文庫)

給食のおにいさん (幻冬舎文庫)

春 スパイス

自校式給食室を公立小中学校で実施しているのはすごい。子供達の反応をほとんどリアルタイムで受け取ったり、調理の様子をガラス越しに見せたり、調理師と子供との対話の機会があるのは、(おそらく保護者達や市民税が強いられているであろう)コストを犠牲にしても余りあるメリット。校内で自分達の食べる給食が作られていたら、私だったら絶対鼻の穴を膨らませながら見学に行くもん。

給食における制限は外食産業の第一線で活躍していた調理師からすると憤怒の対象だけど、義務教育において食育の大切さが叫ばれる限り、学校給食に調理師は必要なんだと思う。

初夏 スプーン

ネグレクトの親を持ち、給食の残飯で飢えを凌ぐ子供が描かれている。コメディタッチな物語の中に放棄型虐待という社会風刺の香り。給食費未払い問題よりは目立たないものの、現実にこういう子供が存在することを、子育てに直接関わっていない大人も認識しなければならない。義務教育に組み込まれた給食という制度は、食育における最後の、かつ最も品格のある砦なのではないか。

夏 スー・シェフ

3連の計量スプーンって、大・中・小さじになってるって本気で思っていた。ないのか、中さじ(料理しない人間)。

私は飽食な現代における料理を「生きるための家事」というよりは、絵画や小説と似た類の「創作物」と捉えているのだけど、そういう意味で、美玲ちゃんは料理を自分の手で生み出す喜びを、最高の形で知ったんだと思う。

秋 グリル

このあたりから、給食調理員としての佐々目の成長を垣間見ることができる。「立場が人を作る」とは、枝衣子にはもちろんだが、佐々目にも言えることだと思った。

毛利さんのように、がむしゃらに頑張っている人ほど他者からの肯定に飢えている説はどんな業種にも、子育て中のママさんにだって当てはまる。憐憫の視線より手助けより、たった一言の肯定が救いになる、そんな瞬間がきっと誰にでもある。

冬 キャセロール

黒チワワが一枚上手だった話。佐々目が彼の掌で転がされるという関係性は、どれだけ時が経っても変わらない気がする。

一見生意気なモンスターチャイルドも、そうなるに至った背景を知ると一方的に責められなくなる。親の価値観が子供の性格を作る。残酷だが子育ての真理だ。

コンテストを駆使して、モンスターを優等生に変化させたそのグラデーションがお見事。この子も毛利さんと同じで、第三者からの肯定を欲していたのだろう。