読書記録

読んだ本の感想まとめ。

キケン

キケン (新潮文庫)

キケン (新潮文庫)

  • 作者:有川 浩
  • 発売日: 2013/06/26
  • メディア: 文庫

1.部長・上野直也という男

そして、この年から上野・大神体制による【機械制御研究部】――通称【機研】の三年にわたる黄金時代が始まる。

この物語の魅力が集約された一文。肌が粟立つ。

2.副部長・大神宏明という男

言葉で同意を得なかったがために起こった悲劇。お嬢様が悪いと大多数の読者は口を揃えるだろうし、TL作品じゃほとんどレイプみたいな形で事に及ぶ男もざらにいるけど、「今から抱くが構わないか」と5秒、5秒立ち止まって確かめておけば、こんなことには。

とはいえ、「本物のお嬢様は、親がいない隙に男を連れ込んだりしない」はごもっともな指摘である。

3.三倍にしろ! ―前編―

元山の頑張りと成果が尋常じゃなくて、調理師系専門学校に行っても立派に頭角を現せたんじゃないかってレベル。努力の鬼。本人は上野と大神を伝説視しているが、奇跡の味に偽りのない味を編み出したこの男も十分伝説である。子供が独立したら趣味で喫茶店でも開くといい。たぶんちょっとやそっとじゃ潰れない店になると思う。

4.三倍にしろ! ―後編―

喧嘩売ってきたPC研がハナから勝負になってなくていっそ哀れ。「クレイジーライダー」は言い得て妙。

奪還シーンは助けられたのが女性なら小鼻を膨らませながら読めるのだが、男だと一秒も萌えねえ。でも学祭編で一番面白いシーンだったのは確か。

5.勝たんまでも負けん!

副題通り。大会運営はザルな勝敗ルールを突かれた形。1回目にしては華々しい大会になったと思うが、優勝者も準優勝者も不在では来年度からの箔がつかない。案の定5回くらいで潰れたそうだ。

理事長としては、ほどほどに盛り上げつつ最後は優勝を掻っ攫う活躍を期待してたんだと思うけど、これは期待に応えたことになるのだろうか。曽我部教授は怒り心頭である。

6.落ち着け。俺たちは今、

昭和? 平成? 何年の設定で書かれたのか気になる。そういえばスマートフォンのスの字も登場しなかったことに、回想編を読み終えてから気付く。まったく古臭さを感じさせない文章力はさすが人気作家だ。

感傷的になるような話ではまったくないのに、時間が現在に移ってからの元山の心理描写にはほろ苦さや郷愁が混じる。黒板の寄せ書きはずるいと思った。

あとがきの「どうやら老いも若きもすべての男子は自分の【機研】を持っています」に男性諸君の青春が詰まってる。