読書記録

読んだ本の感想まとめ。

女性の死に方

女性の死に方

女性の死に方

  • 作者:西尾 元
  • 発売日: 2019/12/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
タイトルが強烈だけど、自死奨励本では決してない。医学的根拠をもとに「こういう死が考えられる」と丁寧に解説されているので、自分の最期に対して心構えができる本。ということは表紙からは伝わらないので、公共の場では読まない方が無難ではある。

死体解剖の執刀医は、死者の身体を切り開いたり臓器を顕微鏡で観察したりする。字面で見ると倫理を逸脱した畏怖されがちな職業だが、むしろ彼らは死因を明らかにし、遺族がきちんと追悼できるように背中を押す尊い仕事なのだと、認識が変わった。死に方について綴られた本としてはもちろん、法医学を一般向けに翻訳した本として読むこともできる書物である。

「女性の」とあるが、男性の死や男性が加害者である女性の死も多く語られているので、決して「女性向けの本」ではない。

「ヒトは本来、皆女性」「女性というものが根本にあって、男性が存在する」SF作家が食いつきそうな法医学ネタ。XYの染色体が消滅して、世界が女性だけになる――そんな設定の漫画がなかったっけ、と調べたらあった。『テンペスト』。法医学的には「XYの染色体を持つ人間が誕生しなくなったら、子孫を残せないため、人類はいずれ滅亡する」のだけど、しぶとい人類のことだから、この漫画みたいに卵子同士で出産する術を開発してしまうような気もする。

ひとり暮らし

独身女性が、あるいは夫と死別し独りになった高齢女性が居室で孤独死し、同居人がいないために発見が遅れる。私はそれを悲劇だとは思わない。死ぬまで独り身でいることを10代で決めた自分からすると、できるだけ誰の手も煩わせずに静かに逝きたいし、無理だと分かりつつも永遠に発見されないのが理想である。だがどんなに孤独な人間でも、ドアの向こう側から死体による異臭がしてくればさすがに発見されてしまうし、腐乱死体と対面させてしまった人に申し訳ないし、かといって自死は失敗が怖い。脳死植物状態になって死んだのに死ねない人間に成り下がるのは、親兄弟には自死よりもクソ迷惑だと思うからだ。悩ましい。結局どれだけ頭を悩ませようと、見苦しくない死に方なんてないのである。

自分も親族がくも膜下出血で10年以上寝たきりだったのと、自身高血圧気味(要薬ではない)から不安になった。恵さん(仮名)のようにすぐに逝くなら苦しみが短い分まだマシだけど、意識不明のまま何年もベッドの上なんて嫌だ。突然死より寝たきりの方が100倍嫌。法医学が死者ではなく生者の医療に役立つ場合もあるとは驚きだった。

自分はうつが重篤の時は狭義の引きこもり、読書ができるようになってからは準引きこもりだったので、父親と同居しながらの孤独死は他人事ではない。就労移行支援に通所している今は、引きこもりの定義からは外れたのだろうか。

ワーカーホリックで仕事以外に人間関係を持たない男性には、一刻も早く別の依存先を見つけてほしい。そのまま定年を迎えて生きがいの一切を失うと、引きこもりどころか自死しかねないぞ。暇は人を殺すのだ。

専業主婦=引きこもりという見方にははっとさせられた。そうだよね、買い物と子供の習い事の送り迎えくらいでしか外出しないのは広義の引きこもりだよね……。

ふたり暮らし

相手(とりわけ配偶者や恋人)がいるからこそ生まれる悲劇の死体が脳裏に浮かんで吐き気がした。ひとり暮らしにおける事故や病気よりもよほど悲劇に思える。

芝居で使われる飴ガラス瓶じゃなく、本物のガラス瓶で人間の頭を殴打したのか。しかもそのまま自分が所有する車に遺棄したら、真っ先に疑われて当然。しかも生活費のために売春までやらせて。こういう男のことをクズと言いますね。刑務所の中で息絶えてほしい。

解剖台の上だけでいえば、夫婦ゲンカにおける妻の勝率は100%である。

女性つよ……。

もしもの時のことを考え、夫が最低限の生活を送れるよう、今から教育してあげてほしいのだ。

昨今の奥さんはただでさえ労働家事育児場合によっては介護とパンク寸前の量の仕事をこなしているのに、大きい子供の教育まで押し付けられるのかw 嫁は母親とは立場が違うんだぞ、最低限の生活能力は男だろうと女だろうと実家を出る前に培っておいてよ。なんで自分が夫より先に逝った場合の面倒まで考えなきゃならないんだ、いくらなんでも奥さん達が可哀想だぞ。自分が死んだあとの夫の生活なんて知るかボケ。この意見にものすごーく譲歩したとして、「13歳からの家事のきほん46」あたりを「もし私が先に死んだ場合でも生きていけるように読んで勉強して。不明点があれば整理してから訊いて」って渡すだけで十分聖母でしょう。

女性たちは月経を通じて、思春期の頃から「生命」を体で感じながら生きているのだ。

自覚はなかったけど、そうかもしれない。出血に不快感はあっても、恐怖まではないな。独身女でこれだから、経産婦はもっと肝が据わってるんじゃないかしら。生命活動と血液って切っても切れない関係なのよ。

家族

自分は親族はもちろん、赤の他人のヘルパーさんに高齢になった自分の介護をさせるのも申し訳なさで吐き気がするので、介護が必要になる前、大きな健康問題が浮き彫りになる前、50代半ばくらいで上手いこと死にたいものだ。自分の半径1m以内だけで震度7地震が起きたりしないかな。

不審死から首吊り自死が明らかになった件では、実際の死の謎はこのような立場の人の所見から真実に変わっていくのだと得心した。法医学はすごい。同居での不可抗力によるひとり飯より、ひとり暮らしでの想定通りのひとり飯の方がずっと精神衛生にいい。

女性はまさに命懸けで子供を産んでいる。

この言葉に妊婦さんの尊さが詰まっている。だから妊婦さんと話す機会があった時は、「元気な赤ちゃんが生まれますように」ではなく、「母子ともに健康で生まれますように」と伝えるようにしている。出産が無事に済むのは当たり前ではない。「胎体」。字を見るだけで、お母さんと赤ちゃん本人と遺族の慟哭が聞こえてくるような気がする。この世の景色をその瞳に映すことすらできなかった子。転生というものを都合よく信じずにはいられなくなる。

幼い子供の死、その上死因不詳の死ほど受け入れ難い死はないかもしれない。ちゃんと悼んであげることすらできない。

揺さぶりによる虐待死のケースで、また法医学の力を感じた。死体は嘘をつかない。泣くことでしか大人の腕力を拒絶できない乳児に対して、惨いことを……。喪われてしまった子が、今度は歯を食いしばって不妊治療に励む夫婦のもとへ行けますようにと願わずにはいられない。

親とはいえ、死体と同居し続けるなんて正気の沙汰ではないと恐れるのが普通の感覚だとは思うけど、「親の年金で細々と暮らしていたため、それが途絶えると生活に困窮する」「引きこもり故どこを頼ればいいか分からなかった」確かにどちらも社会の闇である。非難するだけなら小学生の子供にだってできるのであって、そういう社会的弱者をどうやって労働者に変換させるか、という問題がある。誰しも無関係ではないが、解決の糸口がまったく分からない。最後に記されていた父親のように、問答無用でその生命を絶ってしまうのは、加害者も被害者も周囲も不幸のどん底に叩き落とすだけだ。「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」は慣用句の中だけにしておいてほしい(信長が本当に短気だったのかは怪しいもんだけど)。

病気

自分も年単位で心療内科に通院する精神疾患者なので、薬物中毒は無関係ではない。脈が速いと指摘されたこともある。まあ長期間の服薬による不整脈で死ぬなら、オーバードーズやその他自死よりはマシだと思う。精神系の薬に限らず、薬というのは人間にとって都合のいいものをそう呼称しているだけであって、服用が長期になれば毒になる変わる可能性があるのはすべての薬に言えることだから。

待ってCASE15ってこれ、私のママンのことじゃん、と声が出そうになった。亡くなった場所が違うから別人だけど、一瞬動悸がした。自分の不調に鈍い人、あるいは気付いていても病院を毛嫌いしている人は、周囲が引きずってでも病院に連れて行かなければならない。

ファッションモデルや漫画アニメキャラのプロフィールの影響なのか、日本ではダイエットに目がない女性がたくさんいるけど、どうかこういう怪しいサプリやダイエット食品の餌食にはならないでほしい。身長160cmで体重46kgとかは低体重だよ。……いやぶっちゃけると、体重の数値だけを落とすのはそう難しくないよ。単純に食事量を1日1200kcal程度に押さえて、炭水化物を半分以下にすれば1ヶ月で5kgはするっと落ちるよ。でも脳にエネルギーが回らないから極端に疲れやすくなるのと、その場合削ぎ落とされてるのは脂肪じゃなくて筋肉だから転びやすくなるよ。160cmなら60kgあったってBMIは標準なんだよ。50kg以上の女性をデブ扱いする男は夜道で背後に注意した方がいい。

自殺

自死を選んだ人達のことを悪だと糾弾していないのが、希死念慮を抱いた経験のある人間としては印象がいい。一回自殺未遂を起こして奇跡的に生還・回復した人の言葉なら説得力があるけど、希死念慮すら抱いたことのない人の「死ぬな」「親御さんが悲しむよ」「生きたくても生きられない人が世界にはたくさんいるんだよ」の薄っぺらさときたら、わざわざ嘲笑するのも面倒である。そういう人達だって、高齢者になって生活習慣病を患った時、己の余命に絶望して自死に走らないとは限らないのにね。安易な慰めの言葉は、自分が弱者になった時に跳ね返ってくるよね。

全体の自殺者数は減っているものの、19歳以下の自殺者数は統計開始以来最悪とのこと。草も生えない。自死に救いを見出して実行する青少年が年々増えている。社会の淀みである。いじめの認知件数増加は、単純にいじめ自体が増えたのではなく、顕在化したいじめが増えたということだろう。私は人生リタイアを選んだ米村さん(仮名)を弱い人だとは決して思わない。あの世ではどうか笑っていてほしい。