読書記録

読んだ本の感想まとめ。

地球から来た男

地球から来た男 (角川文庫)

地球から来た男 (角川文庫)

  • 作者:星 新一
  • 発売日: 2007/06/01
  • メディア: 文庫

地球から来た男

地球とそっくりな星=故郷の地球で、保安部門の責任者はテレポーテーション装置などといって男を催眠状態に陥れたものと思うが、真実は作者にしか分からない。どちらにしろテレポーテーション仲間に出会うまで、男は孤独だったのだ。

改善

どこからが催眠で、どこからが現実なのか分からない。構成が巧い。最後の、既婚者のくせに火遊びしようとする男はクズだけど。それ以前に、子供の世話を女房に任せてバーに行く無神経さもどうかと思う。この男の結婚は悲劇の始まりである。

もてなし

自己肯定力を極限まで下げた精神疾患者にとっては夢みたいな話だ。一年間もありとあらゆるもてなしを受け、しかも感謝され逝けるとあらば、自分なら嬉し涙を流しながらこの身を差し出す。WIN-WINである。青年よ、そのバッジを私に譲ってくれ。

包み

事実が想像より味気ないことは往々にしてあるけど、だからといって想像を無駄だと捉えるのはつまらない。想像の翼を広げれば、その後の人生を豊かにしてくれる。画家が包みを開けなかったのは正解だった。真実を目の当たりにしてしまえば、翼は閉じてしまっただろうから。

密会

サブタイトルは「人間電話機」とかの方が訴求力が高かったと思う。浮気……ではないものの、伴侶への不誠実さが夫の言葉の端々から滲み出ている。この状態を端的に表現できる言葉はないものか。

住む人

老人の立場を表現するとしたら、「無期刑の囚人」が一番好き。よく一ヶ月のほとんどを誰とも会話せずに過ごせるものだ。人は社会的な生き物だから、飢饉で息を引き取る可能性より、孤独に耐えかねて首を吊る可能性の方がずっと高いと思う。元秘書=爆発事件の犯人が真実だとしても、老人は彼の訪問を拒否できない。

はやる店

『改善』と構成が似ている。現実の幸福と夢での幸福は両立し得ない。やりきれなさが胸中に広がる。しかし自身、大爆発に遭って逃げ惑う夢を見た数日後に物事が好転した経験はあるから、悪夢と現実の幸福に因果関係がないとは言い切れない。いつか科学的に証明される時代が来るかもしれない。

戦士

真相が予想外すぎた。人類を救った気になって安楽死できるなら喜ぶ人は一定数いそうだけど、息を引き取る直前に攻撃を受けるのは嫌だな。自分なら『もてなし』の方がいい。しかし、不治の病を患っている人しか肩を叩かれないのだろうか。

疑問

人間は堕落し悪用する生き物だから、どこでもドア的なこの手の技術は永遠に実用化されない方がいいのだ。

向上

心が綺麗な人間ではないので、私にはこの人達を殺戮者だと責め立てることはできない。最後の医者と私的利用者以外は。悪辣な人間に対しては「社会の膿の除去」と捉えることができても、上記二人は立派な私的利用だと思う。結局のところ正義の定義なんて、「自分や属する組織に不都合がないこと」でしかないのだ。

能力

自分なら視力を失ったあたりでさっさと首を括ると思うんだけど、報復に犯罪組織の殲滅にと、よくやるわ。