読書記録

読んだ本の感想まとめ。

さくら荘のペットな彼女

さくら荘のペットな彼女 (電撃文庫)

さくら荘のペットな彼女 (電撃文庫)

それって、他人に理由を求めてるってことだよな。何か決めるのに、他人が絡んでれば、失敗したときに言い訳できるもんな。仕方ない、しょうがないって。じゃないと辛いよな、負けたときに全部自分のせいってのは、逃げ道がないってのはさ。

他人に尽くす空太に対して正義のヒーローかよ、と定義づけた直後のこの台詞。なかなかに辛辣。人は多かれ少なかれ、他人に理由を求めてその結果を他人のせいにするところあるし、人生経験の浅い10代20代ならより顕著だと思うのだけども。他人に理由を求めてしまう、それが人間の社会性なのでは?

空太はやたら卑下するけど、猪突猛進するエリート達の背中を見て焦燥感が生まれるだけでも大したもの。私ならただ見上げるだけで、羨ましいとすら思えない。あまりにも崇高すぎて。他人と比較して自分の不出来さを客観視するのは誰にでもできることじゃない。

ましろちゃんへの気持ちは、精神に言葉が追いついていないと言えばいいのか。恋心を早々に自覚して、じれったい片思いが続くのも醍醐味だけど、まだ言語化できない感情も乙なものですね。

仁と美咲先輩の感情のうねりも辛いものがある。ヒロイン至上主義としては、ずーっと足踏み状態の空太に当然腹は立つが、仁にはその5億倍苛立ちを覚える。代わりは代わりでしかない。大切にする自信がない男の情けなさを、ヒロインに押し付けて飄々としてるのが最悪。直接的に傷つけることを恐れた結果、間接的に傷つけてるんじゃ本末転倒以外の何物でもない。大切だから傷つけたくないじゃなくて、傷ついた相手ごと慈しめるのが愛だと思う。それができない仁の感情は、まだ恋だよ。愛じゃない。

才能の差ってやつを埋めようと足掻いているように見えるのも、まだ10代だからだろうか。相手との差をその若さで自覚しているなら、サポートに徹するっていう方向性にいち早く舵を切れると思うんだけど、まあ20年も生きていない男の子にその決断力と精神力を求めるのも酷か。……この関係性、最終巻までにあるべきルートに辿り着けるんだろうか。

原稿完成後にそのデータをPCごとふっ飛ばし、おそらく何日もまともに睡眠を取っていないであろうましろちゃんに手描きで描き直す覚悟を一時的にとはいえさせるとは、どんだけ鬼畜なんだ作者は。ハッキング&盗聴マンのおかげで事なきを得てよかったけど、犯罪者に救われるのは複雑な気分。でも出不精としては龍之介のファインプレーが一番グッときたことは認めなければなるまい。

ましろちゃん、短冊に「空太に浴衣を褒めてもらえますように」とか書いたのかなあ。いじらしい。ぎゅっとしたい。

他人の成功を喜べるやつが、俺には理解できないんだ。

他人の成功を喜べる人間には、異常に自己肯定感の低い人間が含まれていると思う。自分に何ひとつ期待していないから、自分がこの世で一番の出来損ないだと思ってるから、他人に妬みを感じない。この作品のヒロイン達とは真逆のタイプ。言ってる言葉は同じだとしても不健全だから、こういうタイプの人間になるくらいなら、多少の妬みは原動力になっていいと思う。まあ自分の中に初めて嫉妬を見つけた時ってそれはもう衝撃的であり恐怖だから、空太の気持ちはまったく分からないわけではないのだが。

私が彼女の立場なら、方向性を示してくれた編集さんのせいにして半年は塞ぎ込むわ。ましろちゃんのメンタルは鋼すぎる。天才画家としての地位を確立しているなら、挫折を知らない分、凡人より反動は大きいだろうに。

ましろの喜びと痛みを理解するためには、たどりつくしかない。同じ目線で言葉を交わすには、今は果てしなく遠くに思えるその場所まで行くしかないのだ。

男としてのプライドが透けて見える。サポートに徹するのもひとつの生き方だと思うんだけど、この作品の男共はあくまで対等な自分じゃなきゃ許せないのね。

ましろちゃんが第一次選考から漏れた理由を知って脱力。話は最後まで聴けと編集さんは言うが、あんたも結論から先に言え!!!!! 先に悪いニュースを伝えられたら、ショックで他の言葉が入ってこなくなることくらい想像力働かせろ!!!!! そして、デビューおめでとうましろちゃん(私は自己肯定力がない人間なので心の底から人の成功を祝える)。

最後の最後でましろちゃんの気持ちが分かりやすい形で表に出てきてニヤニヤした。十中八九初恋だな。