読書記録

読んだ本の感想まとめ。

給食のおにいさん 卒業

給食のおにいさん 卒業 (幻冬舎文庫)

給食のおにいさん 卒業 (幻冬舎文庫)

冬 ブリオッシュ

佐々目と妹尾さんと毛利さん、それぞれの葛藤と成長が同時進行する。誰か一人に絞った方が書きやすいだろうに、あえて並行で書いたところに作者の筆力とプライドを感じる。

人は自分の中に架空の能力を作り上げて、それを伸ばそうと意固地になることがある。既存の優れた能力に、他人に指摘されて初めて気付くことがある。自分の能力を客観視するのはとても難しい。いや、ほとんど無理だ。周りと比較することでやっと気付くのだ。人間は社会的な動物だから、人の輪の中でしか自分の価値を見出せない。

好きなことだけしていられる人生が幸せなもんか。嫌なことも辛いこともあるけど伸びていけるのが、本当の幸せなんだ。そんな夢は始まりじゃない、終わりだよ。

最後の文が佐々目の価値観をぶん殴ったね。幸せの定義は人それぞれだし、佐々目の「常連だけの小さなお店」も立派な幸せの定義だと思うけど、佐々目本人には強烈に効いたみたい。

YouTuberのキャッチコピーに「好きなことで、生きていく」というものがあるけど、あれって「楽しいことだけを追求する人の人生」を謳っているのではなくて、「どんな苦境も楽しいに変換できる人の人生」を謳っているんだと思う。

大好きな料理を仕事にしても、その仕事の中で楽しいこと嫌なことが生まれるのは佐々目自身も痛感していて、だから「常連だけの小さなお店」の中で生まれる楽しいこと辛いことを全部幸せと解釈する力が佐々目にあるのか、ってことじゃないだろうか。ことことうるせえ。日本語が不自由。

早春 ジュレ

おめでたい冒頭から始まるけど、段々と苦味が混じっていく。児童の保護者同士で取り立てし合うなんて、想像しただけでげんなりする。これがきっかけで胃薬を常用し始める親が絶対にいるぞ。しかも、女性一人が相手だと押し返す糞男。股間が家具の角に強かにぶつかればいいと思う。

親の未払いのせいで子供の人間関係にまで影響が出るの、本当居た堪れない。好きな人に近づくことすら許されないと感じてしまう学校生活。そんな禁断じみた恋を10歳の子供に経験させなくたっていいだろ。

春 レシピ

料理は、永遠にもなれる。

映画だったらポスターに掲載されていそうな、綺麗な言葉だ。

小牧家の給食費不払い問題が解決しなかったのが消化不良。まだ続刊だけど、このタイミングで決着をつけた方が収まりがよかったと思う。

毛利さんからの卒業証書は、涙なしには読めない。